論説:WSBW(World Space Business Week)& SDSS(Space Defense & Security Summit)について(村上)
26回目を迎えたWSBW(World Space Business Week)をParis Westin HotelでNOVASPACE主催で9月16-20日の日程で開催した。また、並行してSDSS(Space Defense & Security Summit)も開催した。
業界のリーダに参加頂き、宇宙ビジネスを取り巻く状況と今後について、様々な角度から議論して頂いた。NOVASPACEではこの期間幾つかの分析レポートについても発表したのでこの内容を含めて報告を行う。
Space-Xは衛星オペレータであり、衛星製造メーカでもあり、打上げサービスプロバイダーであり、垂直統合モデルの象徴となって来ている。衛星オペレータとしては、従来衛星衛星の主要サービスとして提供して来ていたデータサービスや民間航空機へのインターネットサービスや船舶へのサービス提供を中心にStarlinkへの置き換わりが進んでいる。
NOVASPACEは衛星市場動向をWSBW期間中に発表したが、2028年には低軌道サービスが静止軌道サービスの市場規模を逆転すると見込んでいる。この内容はかなり衝撃的で、1年前までは低軌道衛星のビジネスは伸びる可能性を持っているものの静止衛星の必要性は大きく変わることはないと分析していたことから今後の動向の大きな見直しを行って来たことになる。この中心にいるのがStarlinkであり、ここに来てUnited AirやAir Franceが相次いでStarlinkとの契約を発表しており、ViasatやPanasonic等民間航空機へのサービスを提供して来た会社に取っては痛手となっている。
静止衛星は人口密集地へのサービスと言う意味では優れており、低軌道衛星サービスに売上が逆転されたと言っても無くなる訳では無いが、地殻変動が起こって来ているのは疑う余地もない事実である。
衛星メーカについては、静止衛星の発注機数が従来の半分程度になっている。この理由は、低軌道衛星の普及であり、大手衛星メーカは厳しい状況となって来ている。欧州のAirbusとThales Aleniaが合併するとの報道も出て来ている。
また、従来は小型衛星需要が拡大するとのNOVASPACEは報告を行って来ていた。しかし、大規模なコンステレーション衛星であり、中心にあったStarlinkが1.2トン程度に大型化する方針であり、数は予想より伸びないことが明らかになって来ている。
また、大規模コンステレーション計画の殆どが自社で衛星を製造してことで計画を進めていることから、衛星工場の製造能力が需要の2~3倍になって来ていることも明らかになって来ている。Terran OrbitalがLockheed Martinに買収された様な事案は今後数多く出て来ると見ている。
打上げサービスプロバイダーについは、日本がH3ロケットの再打上げに成功し、商業市場への進出が期待される中、Eutelsatと3機の打上げを契約され、WSBWの期間中プレスリリースが三菱重工からあった。欧州は世界から打上げを獲得することには熱心でも海外に打上げを委託することは珍しく、関係者は一様に驚いていた。今年はH3だけでなくAriane6も漸く初号機の打上げに成功し、ULAのValcanロケットの打上げも行われた。Blue OriginのNew Glennロケットも初号機の打上げ準備中である。現在、打上げ市場は、Space-Xが年間100回程度打上げているのに対して、各社政府衛星打上げと商業衛星の打上げを半数程度にして年10程度にしたいと考えている。
Space-Xが市場を独占することは運用性の多様性との観点から衛星オペレータは望んでおらず数社は商業市場で活きて行くことになると見ている。商業打上げ業者の地図がどの様になって行くか関心を持っている。
民間投資については、投資家は以前の様に積極的に投資した時代は終わり、技術に優れた会社や機内接続や宇宙からの電話サービス等有力な技術を持った会社に投資したいと話していた。
回収を考えるとそう簡単に投資できない環境であると話していた。バブルは終わったと話していた。産業界の動向については、企業のM&Aが増えるが新規上場は限られているのではと話していた。
一方で、ESAの事務局長は、競争力強化の為の投資は必要と考えており、今後共予算を拡大したいと考えていると話していた。欧州委員会との役割の見直しや各国の拠出に応じて仕事を出しているジオグラフィックリターンの見直しは、競争力の向上の為の開発では絶対に必要と話していた。日本もそうだが米国との比較で考えた時、産業を維持し、競争力を確保するには今の予算レベルでは難しいと言うことは明らかだと述べていた。
今回、初めて実施したSDSSでは、フランス宇宙軍の軌道上での衛星監視等今後の計画の紹介や衛星産業から見た防衛宇宙事業の在り方や安全保障への民間衛星画像の利用の在り方について議論して貰った。今後は国際協力の在り方や民間衛星画像の利用についてもう少し踏み込んだ議論を行って行く必要があると感じた。
国内の企業からも多数パネルに参加頂き各国と負けない位の議論を展開して頂いた。以前は、聞かれたら話す感じであったが、最近は議論に積極的に参加される方も増えて来ているのは我が国のプレゼンスを示し、受注を増やし、投資を呼び込む上でも良いことだと感じた。
従来から、参加頂いているMHIやIHI Aerospaceに加えて新興企業のAxcel SpaceやSynspective、Astro Scale、Pale Blue等にも登壇頂いた。また、新規で事業を展開されているSpace CompassやNTTにも登壇頂いた。世界の中で活躍される企業が多数出て来て貰えることを期待している。
また、AWARDではSkyPerfect JSATがReginal Satcom Operatorを受賞された。衛星オペレータとして世界と戦う姿勢が評価したと選考委員会のメンバーは話していた。 次はGlobal Business Award目指して是非頑張って頂きたいと思っている。
2024年9月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス
| 【Established Space及び他トピックス】 | 【Hybrid Space】 | 【Emerging Space】 |
【衛星】 | ■ 中国が新たな機密扱いのYaogan-43衛星を打上げる(007) ■ NGAがAIによる衛星画像処理を⽀援する7億ドルのプログラムを開始(008) ■ 宇宙軍はGPSを強化するために、より⼩型で安価な衛星を購⼊する計画(011) ■ 新しいガリレオ衛星の軌道上試験が成功し、軌道上運⽤開始(016)(図-4) ■ FAA、2025年に軌道上デブリ上段規制が完成予定(019) ■ ESAはクラスター衛星の再突⼊を実⾏(021) ■ ⽶国のGPS近代化は遅延と技術的課題に直⾯:GAOレポート(024) ■ ⽶国の防衛計画では次世代の宇宙監視ツールを追求(037) ■ ⽶軍の衛星⾰命(039)(図-11) ■ 点と点をつなぐニーズの⾼まりに伴うFCCの宇宙持続可能性の課題(043) ■ ノースロップ・グラマン社、軍⽤衛星通信アンテナの5,470万ドルの契約受注(048) ■ ⽶国宇宙軍司令官が商⽤衛星データプログラムを⽀持(053) ■ フランスの兵器機関が宇宙の脅威に対応(054) ■ ボーイング社、⽶軍作戦で空域センサーフュージョンを実証(058) ■ ⽶国は次世代GPSの静⽌軌道化に注⽬(069)(図-24) ■ 宇宙軍が「レジリエントGPS」衛星の設計を4社に委託(070) ■ 宇宙軍がオプションを評価する中、軍の気象衛星プログラムは流動的に(071) ■ 宇宙軍は、衛星制御能⼒を強化するために商⽤アンテナの利⽤を検討(073) ■ 宇宙軍はミサイル警報衛星計画の進展を歓迎(076) ■ 中国がタイ及びパキスタンから再利⽤可能な衛星を打上げる(088) | ■ NASA、OSAM-1計画中⽌決定を再確認(014) ■ ⽶軍が宇宙から地球への貨物輸送のための再突⼊機開発に投資(029)(図-7) ■ 英国宇宙機関がクリアスペース社と新たな契約を結び、スペースデブリ除去ミッションを加速(030)(図-8) ■ ICEYE US社がNASAの地球科学研究を⽀援するレーダー衛星に採⽤(038) ■ NGSO市場は2028年までに静⽌市場を追い抜く(042)(図-12) ■ ヨークスペース社の⽶軍衛星が軌道上で光通信を実証(044) ■ 宇宙軍が推進系と電⼒系の研究で⼤学に4,500万ドルを準備(047) ■ Novaspace社は1⽇平均7トンの衛星が打上げ予測(059) ■ 宇宙システム司令部と⽶国宇宙軍がアストラニス社と1320万ドルの契約を結び、新しい衛星に軍事互換性を追加(066) ■ スターフィッシュスペース社でSSPICYを取得(074) ■ 衛星レーザー通信市場は、2024年から2032年にかけて40%のCAGRを⾒込む(077) | ■ 宇宙スタートアップは軌道監視市場での機会に関⼼⽰す(006)(図-1) ■ Tesat端末を搭載したSpaceX衛星が、⽶軍初のレーザーデータ交換を実現(010) ■ Apex社が⼤型衛星バスを発表(046)(図-13) ■ Sceye社がシリーズCラウンドで資⾦を確保(051)(図-15) ■ エアロスペース・コーポレーション社は、⾒つけにくい宇宙船の再突⼊に関する研究を推進(052) ■ Sidus Space社がNeuraspaceでLizzieSatコンステレーションを守る(061) ■ BlackSky社、将来の衛星に軍⽤対応レーザー端末を搭載(081) ■ Xona社はカナダのLEOナビゲーションコンステレーション計画を拡⼤(082) ■ スペースX社、Direct to Cellに対応したスターリンク衛星の打上げに成功(083) ■ BlackSky社、将来の衛星に軍⽤対応レーザー端末を搭載(086) ■ D-Orbit社は、100万ユーロのシリーズCラウンドを終了(087) |
【打上】 | ■ アリアンスペース社はマルチスペクトルイメージャーミッションのSentinel-2C⽤Vegaロケット打上げ準備中(003) ■ 最終旧型ベガロケットがSentinel-2Cを打上げ(009)(図-2) ■ 中国の秘密の再使⽤型宇宙機が軌道から267⽇後に帰還(017) ■ 議会、業界はFAAの打上げライセンス規制を批判(027) ■ アリアン6上段問題を解決するソフトウェア修正(045) ■ ロシア、アンガラ1.2を極秘ミッションで打上げ、もう1機の打上げは今⽉後半(050)(図-14) ■ ULA社がバルカン実証ミッションの2回⽬を開始(060)(図-17) | ■ NASA⽕星探査ミッション「ESCAPADE」打上げ準備進む(012)(図-3) ■ 最初のニューグレン打上げからNASA「ESCAPADE」が外れる(015) ■ スペースX社、「NROL-113」ミッションの打上げを実施(020) ■ LEOに1,000ドルで打上げ:韓国の再使⽤型ロケット計画はSpaceXに対抗(026) ■ Landspace社が⾼度10キロメートルの再使⽤型ロケット⾶⾏試験を完了し、2025年の打上げを視野に(032) ■ 中国、捷⻯三号で衛星8機を海上から打上げ(072) ■ 仏MaiaSpace社がフランス領ギアナの旧ソユーズ発射台を使⽤(079)(図-25) | ■ Evolution Space社がSpaceport Company社の海上プラットフォームでロケットをテスト(005) ■ Rocket Lab社のKinéisの打上げ、「IoT⾰命が進⾏中」(049) ■ スペースX社、欧州の測位システム「ガリレオ」を打上げ(063) ■ ⼩型ロケット計画は市場の後退にもかかわらず前進(064) ■ Firefly Aerospace社がNOAA QuickSoundunderの打上げ契約を受注(068)(図-18) ■ Blue Origin社はニューグレン上段の燃焼試験を実施(078) ■ SpaceX、Falcon 9の打上げを⼀時停⽌、上段の軌道離脱異常(085) |
【その他】 | ■ ESA⽊星氷衛星探査機「Juice」⽉-地球スイングバイ時の状況を公開(001) ■ ESA、スラスター問題でBepiColombo軌道投⼊を延期(002) ■ NASAが「Crew-9」ミッション打上げ時のクルーを発表2名でISSへ(004) ■ 中国は2028年に⽕星サンプルリターンミッションを計画(013) ■ スターライナーが無⼈で地球に帰還(018)(図-5) ■ Europa Clipperが打上げ前審査に合格(022)(図-6) ■ NASAは⽕星の商業サービスへの道筋を提⽰(023) ■ NASAのヴァイパーミッションに関するキャンセル情報(025) ■ NASAが惑星探査機「ボイジャー1号」のスラスター切り替えに成功(040) ■ インドは⽉サンプルリターン、⾦星オービター、再使⽤型ロケットを承認(056) (図-16) ■ 謎に包まれた中国の再使⽤型試験宇宙機が帰還(062) ■ NASAはVIPERをキャンセルし、⽉探査のリーダーシップを⺠間に譲る(067) ■ 中国が有⼈⽉⾯ミッション⽤の⽉⾯宇宙服を発表(084) | ■ NASAが⽉⾯通信および航法サービスにIntuitive Machines社を採⽤(055) ■ Falcon 9、SLC-40から初の有⼈打ち上げでISSに新たな乗組員を送り込む(080) | ■ Crew DragonがPolaris Dawn⺠間宇宙⾶⾏⼠ミッション打上げ実⾏(028) ■ 氷探査機Lunar TrailblazerとIM-2は、2025年1⽉の打上げに向けてほぼ準備完了(033)(図-9) ■ ポラリス・ドーンの宇宙⾶⾏⼠が宇宙遊泳成功(035)(図-10) ■ クルードラゴンが着⽔、ポラリス・ドーンのミッション完了(041) |
【国内】 | ■ ユーテルサット社、三菱重⼯とH3ロケットによる複数打上げ契約締結(057)(図-21) ■ ⽇本がH-2Aロケット49号機でIGSレーダー8偵察衛星を打上げ(075)(図-23) | | ■ アストロスケール社とClearSpace社が2基の衛星軌道離脱ミッションを推進するための資⾦を獲得(031)(図-19) ■ ispace2号機は12⽉に打上げ予定(036)(図-20) ■ インターステラー社、SBIR助成⾦を確保(065)(図-22) |