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2024年03月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:大石 強
発行責任者:村上 淳

Satellite2024について(村上)

Satellite2024がWashingtonで3月18-21日の間、開催された。Satelliteは衛星関係のコンファレンスとしては弊社が秋に実施しているWorld Space Business Week(WSBW)と並んで最大規模のイベントとなっている。1万人を超える人が参加していた。
WSBWが昨年1,000人を超えて最大と喜んでいたが、Satelliteの規模はその10倍で規模の大きさに圧倒された。

1.全般

衛星を中心としたコンファレンスでありセッションも衛星関係のものが多いのが特徴である。
衛星オペレータは、通信単価がSpace-X(Starlink)の低価格戦略に引きずられて低下していることやViasatの衛星不具合で業績が悪化していることもあり、正直元気がなかった。
従来衛星オペレータは静止衛星の運用で確実に利益を上げていてSpace-X(Starlink)に余り関心はなかった。
Starlinkの構想が出た時は、Telesatが既に構想を出しており、2番煎じで成功しないと思われていた。低軌道衛星網の配備が進んだ今日ではその有効性は疑いようのないものとなっているのが共通の認識であった。

衛星オペレータは、従来から得意として来た静止衛星は米国の様なまとまった市場に対しては効率的なシステムであり、これを維持する方針に変更はない。一方である程度フレキシビリティを持たせられる中軌道衛星と時間遅れを少なく出来る低軌道を組合わせてビジネスを展開しようとしていることが分かった。

衛星オペレータのどこも同じ方向性を持っており、IntelsatはOnewebと連携し、EutelsatはOneWebを買収して低軌道衛星網との連携サービスを目指している。SESは自社の静止衛星、中軌道衛星O3Bと低軌道衛星のStarlinkと連携しサービス展開を考えている。

Starlinkは全世界へのサービスを展開し易い特徴を活かして船舶へのサービスや農業関係へのサービスを開始している。既存の衛星オペレータからするとSpace-Xに仕事を取られていると言う思いが強いが、市場の動きに衛星オペレータが付いていけていない印象も持った。
衛星メーカは稼ぎ頭であった静止衛星の機数が、商業静止衛星について従来の年20機から10機に減少している上に半分が2-3トンクラスの小型静止衛星となっており、年間5機程度を大手5社で争っており苦境に喘いでいることが分かった。小型静止衛星は新興企業(AstranisやSWISSto12といった企業が受注している。3Dプリンターを最大限活用しており、価格が画期的に安くなっていることが分かった。米国については米軍向けの衛星がかなりの機数ありこの落ち込みを凌いでおり、比較的好調である。また、Lockheed MartinやBoeingといった大手は、小型衛星企業を買収することにより、仕事量の落ち込みを防ぐ戦略に出ている。

2.Space-X

衛星市場の競争が激化する中、衛星オペレータや衛星メーカは、Space-Xは別格との話が出る様になって来た。Space-Xの創業は2002年であり当時は小型衛星打上げなんて金にならない、好きにさせておけばと言われていたのに、僅か20年で西側の衛星の90%がSpace-X打上げられている。Ariane6の開発遅れで欧州の政府衛星までFalcon9に委託する状況となっている。
この状況をどう考えたら良いのであろうか。
Space-Xの従業員は15,000人で最早大企業と言ってもおかしくない規模になっている。
Space-Xは従来機器は販売しない方針を見直し、光ターミナルを外販することを考えるとの話もあった。国防省向けに特別な契約を進めている話も出て来た。動向を見ていると特別な地位となってしまった感すら思える。
打上げサービスのパネルセッションではSpace-Xは昨年97回打上げて今年は150回を目指していると話していた。日本や欧州、米国のULAが機体の入れ替え時期に入っており、年数回しか打てない状況となっていることもあり余計に独走振りが目立ってしまっている。
もし、Starshipが運用段階に入るともう1段の地殻変動は避けられない状況となって来ている。

3.米軍の動向

米軍は基本的に新規の技術開発プログラムを除いてコストプラス契約から固定価格契約に移行させることを考えている。これにより企業は緊張感を持って契約を遂行させることを意識させたいと話していた。衛星配備としては、静止衛星、中軌道衛星、低軌道衛星を組合せてより堅固なシステムを効率良く作って行く方針を出していた。低軌道衛星はデータの低遅延性等良い面もある反面、1ヶ所にデータを送ろうとすると極めて効率が悪く、意外にシステムが脆弱であり、低軌道衛星だけに依存するのは望ましくないとの判断である。

全世界をカバーしつつ堅固のシステムを構築すると言う米国ながらの戦略と理解した。

4.米国の戦略

国際協力の在り方について幾つか話を聞いていて、米国が最近良く言っている国際協力は、各国と横並びで協力することを考えているのではなく、先ずは米国第1主義が前提にあって、この上で各国と連携したいと言うことが改めて分かった。

月面開発や軌道上サービスで盛んに国際協力と話すのでどの様に協力するつもりか聞いたところ、本音は米国で開発したものを各国で使って貰うことだと話していた。
我が国も力をつけて米国から協力要請を受ける形を作れないと米国製品を購入するだけの協力となってしまうのでは感じた。

5.日本の企業動向

Pale Blue 浅川CEO(Satellite2024リンクより)

水推進装置を開発・販売している東大発の新興企業Pale Blueがパネリストとして登壇し、どうどうと将来計画について話をしていた。
新興のコンポーネントメーカが登壇しても言う方もいるかも知れないが最近海外で存在感の薄い、日本企業の中にあって頑張っている感じを持った。
水推進装置だけなく、この知見を活かして、製品のバラエティーを揃えることが出来れば発展出来る可能性が広がるのになあと感じた。

期間中、NECは光ターミナルメーカのSkyloomとの提携を発表していた。日本の開発の遅さと市場の規模を考えると海外との連携は必須であり、今後の展開に期待している。

日本は産業競争力が大きく落ちており、この30年間で世界から益々後れを取ってしまった。

宇宙を得意とするSkyPerfect JSATと地上通信網と海底ケーブルで強さを誇るNTTが組んでいることで日本復活の起爆剤として期待できる印象を持った。

Space Compass 堀Co-CEO (Satellite2024リンクより)

静止軌道、低軌道、HAPSまで組み込んだシステムで低軌道だけのStarlinkに対抗して行くつもりと堀社長は熱く語って、モデレータをも圧倒していた。

Space-Xが僅か20年でここまで来たことを考えるとこれから20年掛けて日本復活させる気概を持ってSpaceCompassに頑張って欲しいと強く感じた。


WSBWは、今年からWorld Space Business Week
  1. World Space Business Weekにブランド名を進化。
  2. 宇宙ビジネス関連各社(衛星事業者、衛星製造会社、打上げ事業者、金融業者など)のトップクラスの方々が集まるコンファレンス。
  3. 宇宙関連のより広範なトピックスをカバー。開催日/場所:2024年9月16日-20日/パリ

《昨年開催のWSBW2023の主要指標》

今年、フランスの防衛・軍事団体と提携して、宇宙防衛・安全保障サミット(SDSS)を2024年9月17日-18日/パリにて初開催。
  1. 防衛、安全保障、宇宙産業におけるグローバル・リーダーが一堂に会する重要なイベント(WSBWとの相乗効果の実現)。

追記:5月30日(Single Day Event)にシンガポールで開催予定のASBWについては、近々に別途ご案内予定です。


2024年3月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■バイアサット、空軍の通信実験でノースロップ・グラマンと連携[NO.001]
■宇宙軍総司令官、衛星防衛における「脆弱性の窓」を警告[NO.002]
■中国、初の高軌道インターネット衛星を打ち上げ[NO.003]
■NASA、OSAM-1衛星サービス技術ミッションを中止[NO.009]
■ボーイング社、米軍通信衛星で4億3900万ドルの契約獲[NO.010]
■Viasat、ノースロップ・グラマン社から米空軍の商業宇宙インターネット実験を受注[NO.011]
■シームレスエアアライアンス、3GPP 5G NTNを航空分野に推進[NO.019](図-1)
■MDAがMDAスペースにブランド変更[NO.026]
■マルチ軌道時代の幕開け[NO.028]
■FCC、スマートフォンへの直接接続規制の枠組みを承認[NO.036]
■衛星メーカー、GEO市場の縮小を擁護[NO.048]
■GEO事業者、スターリンクに対抗するため地元サービス・プロバイダーに注目[NO.050]
■中国、月の裏側探査へ衛星打ち上げ 地球と通信[NO.061]
■中国軍、軌道上給油に戦略的アプローチ[NO.069]
■ESA、衛星航法ミッションで3件の契約を締結[NO.075]
■AT&T、スマートフォン向衛星直収サービス実現支援強調[NO.077]
■韓国、4月初旬に2機目のスパイ衛星を打ち上げへ[NO.078]
■2025年に軍事衛星の軌道上サービスミッションを計画[NO.080]
■国防総省の商業衛星通信統合資金増額で、衛星企業は慎重に楽観視[NO.082]
■ボーイングの衛星事業、軍事的チャンスに照準を合わせる[NO.092]
■LM社、Terran Orbital社買収を提案 [NO.008]
■Viasat社、LEO衛星向けオンデマンド低遅延データ中継サービスにRocket Lab社を選定 [NO.021]
■Thaicom社、2025年打ち上げ予定の小型GEO衛星をAstranis社に発注 [NO.022]
■Ovzon、欧州SATCOM-as-a-Service拡大受注 [NO.031]
■シームレスなマルチオービット・ネットワークを構築するため、衛星会社がありそうでなかった提携を結ぶ[NO.039]
■イーロン・マスクのスペースX、米国防総省のメガ軍拡のためにスパイ衛星を開発中[NO.053]
■LM、パートナーシップを通じ衛星事業成長を目指す[NO.059]
■インテルサット、OneWeb LEOパートナーシップ拡大[NO.060]
■ロケットラボが衛星バスのラインナップを公開 [NO.012](図-2)
■BlackSky、AIモデルの訓練データ国防省契約を獲得[NO.014]
■スペースX、スターリンクBB増強のためE帯電波を取得[NO.027]
■ASTスペースモバイル社、ITUとFCCへのコンステ申請更新[NO.034]
■シエラ・スペース社、軍事転用可能な衛星を開発中[NO.037]
■Terran OrbitalがGEO小型衛星製造計画発表[NO.038](図-3)
■Omnispace社、アフリカ最大の通信事業者とスマートフォンへの直接接続LEOプランをテストへ[NO.043]
■ロフトオービタルとスカイサーブ、AIを活用EOアプリで提携[NO.047]
■Orbith、アルゼンチン向小型Astranis GEO BB衛星[NO.051]
■Umbra社、タンデム型小型衛星2機のSARデータを公開[NO.052]
■Capella Space、レーダー衛星の国際市場に照準[NO.057]
■Swissto12、小型GEO衛星の製造設備を拡張[NO.058]
■プラネット社、2000万ドルのカーボン・マッパー契約を発表[NO.093]
【打上】■中国が衛星打ち上げに失敗[NO.041]■国防総省の技術革新部門、Firefly打上げ機の地球周回軌道外ミッション用評価を開始[NO.070]■ESAがスペインPLD Spaceへ資金提供 Miura 5ロケット[NO.013]
■スペースX社、2ヶ所から2日間に2回の打ち上げを計画[NO.035]
■新型ロケット「スターシップ」第3回飛行試験を実施[NO.040](図-4)
■スターシップが小型ロケットに大きな影響を与える可能性[NO.066]
【その他】■ロシア、月面に原発設置を検討 中国と共同=ロスコスモス[NO.017]
■ノースロップ・グラマン、月面鉄道のコンセプトを開発へ[NO.055]
■国会議員、宇宙軍の2024年予算を10億ドル削減[NO.064]
■Hanwha Phasor、今夏のマルチ軌道ターミナル・デビューを目指す[NO.065]
■宇宙軍と宇宙司令部は、対衛星の脅威に対抗するための未予算プログラムに20億ドル以上を求める[NO.074]
■ESAとISRO、協力関係の拡大を模索[NO.094]
■HispasatとInfinite Orbits、欧州の寿命延長ミッションにて協力[NO.044]
■DIU、宇宙ロジスティクス技術で3社と契約[NO.067]
■月着陸船「Nova-C」月面で撮影新たな画像公開[NO.005](図-5)
■Stratolaunch、Talonの初フライトを実施[NO.025](図-6)
■Neuraspace、無料STMサービスを開始[NO.046](図-7)
■Orbit Fab、衛星給油ポートの価格を公表[NO.049]
■イン・オービット・エアロスペース社がAFWERX契約獲得[NO.084](図-8)
■宇宙空間で「製薬工場」の立ち上げを目指すスタートアップ[NO.087]
【国内】■鎌倉に「宇宙空間観測所」 三菱電機の新施設、運用1年でメディア初公開[NO.004](図-9)
■NEC・住商、AI農業支援を世界展開 [NO.016]
■三菱重工、軌道上で物体検知 AIが衛星画像処理[NO.023]
■だいち4号、24年度打ち上げ/三菱電機[NO.030] ](図-10)
■極超音速ミサイルを宇宙から探知・追尾 防衛省、IHI系に実証発注[NO.042]
■日本人2人が月面着陸、「アルテミス計画」合意方針[NO.045]
■三菱重工、H3ロケット胴体公開[NO.062] ](図-11)
■ NEDO、衛星データ活用技術に懸賞金 公募開始[NO.063]
■スカパーJSAT、米軍と宇宙監視で協議 安保収益源[NO.068]
■宇宙ごみ除去で商機拡大目指すスカパーJSAT[NO.071]
■川崎重工、軌道上でデブリ捕獲衛星の技術実証に成功–接近して捕獲機構を伸展[NO.072] ](図-12)
■産総研、斜面の災害リスク抽出 衛星観測データ・地質情報利用[NO.073]
■EO、民間主体移行 だいち3号後継は小型衛星網[NO.076]
■政府宇宙技術戦略初策定 技術的優位性など狙う[NO.086]
■「核攻撃衛星」開発を阻止 日米の安保理決議案[NO.089]
■防衛省、新興と宇宙開発連携 国産技術育成など[NO.029]
■NECとSKyloom、100Gbps宇宙光通信で提携[NO.054]
■JAXA、超小型衛星打上にインターステラ等4社選定[NO.088]
■スカイパーフェクトJSAT、アーリーステージの宇宙開発機会をさらに探求[NO.091] ](図-13)
■Synspective + Dynamic Map プラットフォームが企業イノベーション促進プログラムに採択[NO.006]
■キヤノン電子「CE-SAT-IE」カメラ初撮影[NO.007](図-14)
■みずほ銀、スペースワンに出資 宇宙開発支援[NO.015]
■アクセルスペース小型衛星「PYXIS」、軌道投入に成功–「ファーストボイス」も受信[NO.018] ](図-15)
■アストロスケール、英国宇宙庁契約を獲得[NO.020]
■茨城県、宇宙関連共同受注体 企業参入支援拡充[NO.024]
■Synspective小型SAR衛星「StriX-3」アンテナ展開[NO.031]
■民間小型ロケット「カイロス」打ち上げ失敗 [NO.033] ](図-16)
■高砂熱学、「月面用水電解装置」開発 冬にも打上げ[NO.056]
■東北大と北大、超小型衛星の開発拠点連携[NO.079]
■QPS研究所、スペースXライドシェアミッションで打上げへ[NO.081]
■ispace、株式売却で5350万ドルを調達[NO.083]