海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2024年02月29日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:大石 強
発行責任者:村上 淳

論説:最近の動向について(村上)

今回は最近の宇宙開発の動向について、1つはSilicon Valleyで行われたSmallsat Symposiumのトピックス、2つ目はH3ロケットの打上げ成功、そして米国企業(Intuitive Machine)による月面着陸について報告させて頂く。

Smallsat Symposium

Smallsat Symposiumは、2/6-8 Silicon ValleyのComputer Museumで開催された。春と秋に開催されているSymposiumで9年目を迎えている。10月の開催が米軍を含んだSymposiumになっているのに対して春のSymposiumは小型衛星技術を中心としたSymposiumとなっている。
驚いたのは参加者の多さで900人も参加しており、昼食の場所を確保するのも一苦労だし、駐車場も一杯でその盛況ぶりと関心の高さに驚かされるばかりであった。
参加者としては、小型衛星メーカや機器メーカが多く参加しており、こんなに関係者がいるのかとすそ野の広さに驚かされた。一方でLockheed MartinやNorthrop Grummanと言った最近小型衛星を積極的に取り組んでいる企業からの参加は少なかった。

この様な中で特徴的だったのは、会場には殆ど来ていないSpace-Xの脅威について誰もが口にしていたことであった。Space-Xの貢献によって打上げ単価が確実に下がって来ている。
しかし、この先Starshipがうまく行き始めると打上げ価格は更に下がることになるのと打上げ能力が各段に上がってしまう。マーケットが大きく変動することに脅威を感じ始めている人が多かった。

打上げ能力が確保できることにより、機能的に考えると小型衛星である必要は最早必要なくなるとの話があった。確かにSpace-Xが通信事業として行っているStarlinkは次世代では1トンを超える衛星にすると言われている。機能をアップして高いサービスを行うことがビジネスとしては必要との判断があるとSpace-Xは話している。小型衛星メーカ曰く、後、5年位すると小型衛星はなくなっているかも知れないとの発言もあった。市場は動いているなと感じた。

米国の衛星産業が活況を呈している要因は、2021年の民間投資のピークから投資が3割も減っているのに、政府支出が増えていることによるとのことであった。民間投資家からは2021年の時はお金が余っていたので、余りに投資を急いでしまった。これにより、多くの投資が回収出来なくなっている。本来、企業はきちんとしたビジネス戦略を示し、それに対して投資家は適切な評価を行わなければならないが、当時はそれが出来ていなかった。その結果、現在、ちゃんとビジネスを行って成長の可能性がある企業まで投資を受けられなくなってしまっているとのことであった。
また、企業は政府の予算を期待して熱心に政府の公募に応募して資金を獲得したがるが、多くは成功していない。この要因はビジネス展開よりも資金獲得に勢力を使って、肝心なビジネスが二の次となっていることによるとの話があった。新興企業がどんどん出て来ている上手く行っていると思っていた米国でも実態は中々うまく行っていないことか。

今後の技術分野として軌道上のデータセンターの話があった。印象的だったのは、軌道上での光通信の機器はまだ大きく今後、小型、軽量化、高性能化を目指さないと行けないとの話が光ターミナルメーカからあった。現在、行っている米軍向けは最早過去の技術であり、これから革新を遂げないと生き残れないと機器メーカは話していた。Space-Xは年間1,000機の光ターミナルを製造しており、メーカとしてはこれを脅威として感じているとのことでsった。
また、AmazonやMicrosoftは地上のデータ網と宇宙のデータ網は一体として考えて行くと話していた。軌道上で光通信により速度がアップするのとコンピュータの清野が向上してデータ処理が迅速に行える様になるのとAIにより地上を介さなくても軌道上でデータ処理が行う方が効率的と考える様になって来たとのことである、また、地上でのクラウドと組合わせることにより新たなサービスを目指すとのことであった。
日本も遅ればせながら軌道上でのデータセンター化の検討を始めているがスピードが遅いと感じている。せめて開発のスピードを上げることが必要ではないかと思っている。

H3ロケット打上げ成功

2月17日我が国の基幹ロケットH3ロケットの打上げに成功した。前回の失敗から1年を要して、万全を期した中での成功であり、関係者の努力に敬意を表したいと思っている。 

現在、打上げ市場における衛星打上げはSpace-Xに大きく依存している。打上げロケットは入れ替えの時期に入っており、日本、米国、欧州の何れも大型ロケットの開発に苦戦している。

米国で長年米軍やNASA向けの衛星打上げに従事して来たULAでさえ、新規のロケット開発が遅れる中、身売りされる噂が流れている。欧州のAriane6もデビューが大幅に遅れている。

Space-Xは確かに失敗が少ないし、安定しているのは事実であるが、打上げを1社に依存するのはバランスとして良いとは言えないと思っている。

この様な中、H3が困難を乗り越えて1歩前に出たことは喜ばしいことだと思っている。
Space-Xは3日に1度打上げを行っており、打上げをルーティン的に行える体制を確立して来ている。Space-Xと今は真正面に戦うことは出来ないまでも確実に実績を積んで行けば未来が開けるチャンスも来ると思っている。

月面開発

もう、1つが米国民間企業による月着陸が行われたことである。先月Astroboticsが余りに単純なミスで失敗しただけに今回の成功が上手く行き過ぎてびっくりしている。

民間企業主導で行うことなので、失敗は覚悟していたとNASAは話していたが、このミッションはNASAが強力支援していた。2回続けての失敗は避けたいと思っていた。また、企業で働いている人はNASAや大手宇宙企業から移って来ている人たちが多くいる。宇宙開発の経験を積んで来た人達が新たな可能性を求めてこの会社に移り、若手と連携して成功に結び付けた。

米国は転職社会であり、優秀な人程、どんどん転職してキャリアアップを行う社会の良いところが出たプログラムだと思っている。

また、民間企業が実施したことになっているが、NASAが契約してサービス調達を行っており、民間が実施した事業とは言えない。

我が国の月開発企業ispaceも小さいながら政府の支援が少ない中でも頑張っている。まだ、戦いは始まったばかりであり巻き返せるチャンスはあると思っている。日の丸を付けた民間着陸機が月に降り立つ日が来るのを心待ちにしている。


WSBWは、今年からWorld Space Business Week
  1. World Space Business Weekにブランド名を進化。
  2. 宇宙ビジネス関連各社(衛星事業者、衛星製造会社、打上げ事業者、金融業者など)のトップクラスの方々が集まるコンファレンス。
  3. 宇宙関連のより広範なトピックスをカバー。開催日/場所:2024年9月16日-20日/パリ

《昨年開催のWSBW2023の主要指標》

今年、フランスの防衛・軍事団体と提携して、宇宙防衛・安全保障サミット(SDSS)を2024年9月17日-18日/パリにて初開催。
  1. 防衛、安全保障、宇宙産業におけるグローバル・リーダーが一堂に会する重要なイベント(WSBWとの相乗効果の実現)。

追記:5月30日(Single Day Event)にシンガポールで開催予定のASBWについては、近々に別途ご案内予定です。


2024年2月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■ルフトハンザ・グループ、IFCのアップグレードにViasatを採用 [NO.001]
■ユーテルサット、老朽衛星の異常でサービス停止[NO.006]
■ Hellas SatとThales Alenia Spaceは、Hellas Sat 5用の光通信ペイロードを開発のMoU締結[NO.012]
■GSOAとESA、5Gと6G宇宙ベースシステム育成協力強化[NO.016] 
■ノースロップ・グラマンの衛星給油技術がSSCの一次給油ソリューション・インターフェース標準に選定される[NO.017]
■衛星と地上を一体化する5G・6Gネットワーク試験衛星を軌道投入 中国企業が開発[NO.027]
■将来の軍事ターゲット追跡衛星は、宇宙軍が運用[NO.030]
■インテルサット、米軍機向けにマルチ軌道衛星端末を製造[NO.031]
■米、ロシアの宇宙兵器開発に懸念 衛星標的[NO.039]
■ロッキード・マーチン社、小型衛星の生産を増強[NO.042](図-1)
■ユーテルサット OneWeb Gen 2のアップグレード計画を縮小[NO.047]
■Viasat、軍用輸送船隊で初のBBアップグレードを完了[NO.054]
■米国防総省、現在の弾道ミサイル探知能力を上回るL3Harrisミサイル追跡衛星を打ち上げ[NO.055]
■脆弱なGPSのバックアップ策を巡る競争[NO.056]
■衛星プログラムの問題により、エアバスは2023年に6億ユーロ(6億5000万ドル)の費用計上を余儀なくされた[NO.059]
■Avanti、テレサットLightspeedのLEOBBサービス統合へ[NO.065]
■米国、スマートフォン直接接続の規制枠組み案を最終決定[NO.066]
■中国、軍事機密衛星を静止軌道ベルトに向けて打ち上げ[NO.069]
■宇宙軍、核指令衛星の固定価格化の流れに逆行[NO.073]
■ASTは、ViasatのELEVATEプログラムに参加によってエンドツーエンドのリモート接続を提供[NO.003]
■G60メガコンステレーションを支える上海企業が9億4300万ドルを調達[NO.007]
■中国民間企業の「吉利星座02組」衛星11機打ち上げ成功   衛星コンステレーションで車の自動運転をサポート予定 [NO.022](図-2)
■BlackSky Spectra®宇宙ベースAIプラットフォームがIARPA(インテリジェンス先端研究プロジェクト活動)にて選定される[NO.004]
■BlackSky、インドネシアに画像サービスと衛星を供給[NO.020]
■Skyloが3700万ドルを調達、ダイレクト・ツー・デバイスパートナーシップの拡大を目指す[NO.034]
■米グーグル、メタン排出源を衛星画像で特定へ[NO.048]
■AI企業、宇宙から極超音速ミサイル探知SW開発中[NO.050]
■BlackSky、インドネシア国防総省から複数年契約を獲得[NO.053]
■Unseenlabs、海上監視コンステレーションの拡張に向け、スペースXと契約[NO.058]
■Astranis社、故障デビュー衛星をアラスカからアジアに移転[NO.079]
【打上】■中国打上げの新記録、西昌発射場が中国200回打ち上げの最短時間を達成[NO.010]
■インド、GSLVロケットで気象衛星INSAT-3DSを打上げ[NO.045]
■宇宙大国ロシアの黄昏 打ち上げ9割減、インドなど代替[NO.067]
■中国、20基の人工衛星を内陸と海上に分けてロケット打ち上げ[NO.010](図-3)
■スペースXが米国ミサイル防衛局と米国宇宙開発庁の衛星打ち上げに成功 ミサイルの探知や追尾に使用[NO.075]
■Exotrail 、小型衛星のGEO輸送スペースタグ開発[NO.002](図-4)
■Falcon9、最初のIntuitive Machines月面着陸機打上[NO.038]
■Electron、アストロスケール検査衛星を打ち上げ [NO.049](図-5)
■PLD Space、柔軟なペイロード収容をサポートするESA Boost!契約を獲得[NO.057]
【その他】■北京市が商用宇宙開発産業クラスター拡大へ [NO.011] 
■北京政府が商業宇宙行動計画を発表[NO.021]
■ L3Harris、デジタルフェーズドアレイアンテナデモ実施[NO.023]
■ギリシャ、アルテミス協定に調印[NO.025]
■BAEシステムズ社、ボールエアロスペース社買収の承認獲得[NO.033]
■中国の2024年宇宙計画、100回の打ち上げと月サンプルリターンミッションを含む[NO.072]
■ルクセンブルク国防総省、SESおよびHITECと提携し、SATCOM地上インフラを改善[NO.076]
■中国、月の裏側でサンプル採取へ 「成功なら世界初」[NO.078]
■Ax-3民間宇宙飛行士ミッションが着水[NO.022](図-6)
■米国の商業宇宙ステーション「Starlab」はスペースXの「スターシップ」を利用して打ち上げ予定[NO.029](図-7)
■Blue HaloとEqlipse Technologiesが提携し、グローバルな防衛技術サポートを提供[NO.032]
■ClearSpace、給油能力開発で英国から新規契約獲得[NO.060]
■米民間企業インテュイティブ・マシーンズの月着陸船「Nova-C」が月面に着陸[NO.068](図-8) 横転状態か?[NO.074]
【国内】■スカパーJSAT株式会社がスペースデブリ対策としてオービタルレーザー社を設立[NO.005](図-9)
■放射線飛び交う空間でも稼働、宇宙向け新型半導体の支援加速…「衛星のデジタル化」で需要増[NO.008](図-10)
■ロケット打ち上げ年30件、30年代前半までに 政府新目標[NO.013]
■有人宇宙システム(JAMSS)がアクシオム・スペースの民間有人宇宙飛行Ax-3クルーの訓練を実施[NO.014] 
■宇宙開発戦略本部が宇宙基本計画工程表決定[NO.019] 
■京セラ、米に新工場 衛星向け水晶発振器を量産[NO.036] 
■KDDIがサブ6対応エリア2倍に 衛星通信の干渉回避、基地局出力を増強[NO.037] 
■「H3」2号機打ち上げ、衛星分離に成功 [NO.043](図-11)
■経済安保の機密情報制度、経団連が統一的運用を提言[NO.044]
■過熱するロケット市場「2番手争い」 ひしめくライバル新型機[NO.046]
■JAXA、「スリム」運用再開 月面観測など通信機能維持[NO.070]
■三菱電・三菱UFJ銀など、衛星データサービス企画に出資[NO.064]■Pale Blue、文科省のSBIRフェーズ3に採択[NO.015] 
■スペースワンの新型ロケット「カイロス」3月9日 [NO.026](図-12)
■宇宙から水道管漏れをチェック! 人工衛星マイクロ波で漏水箇所を検知 兵庫の27事業体が導入へ! [NO.040](図-13)
■楽天モバイル/衛星とスマホ直接通信へ 2026年中に[NO.041]
■横河電、ブルーオリジンと協業 宇宙事業の連携加速[NO.051]
■アストロスケール、宇宙ゴミ除去実証衛星の打上成功[NO.052]
■Pale Blue、生産技術開発拠点を新設へ[NO.061]
■ワープスペース、ドイツ・フランクフルトに子会社を設立[NO.062]
■シンスペクティブ、小型SAR衛星を来月9日にも打上げ[NO.063]
■三井物産、共創基金助成2件決定 [NO.071]
■京大など、フォトニック結晶レーザー開発 宇宙空間通信向け[NO.077]