海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2023年2月28日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:大石 強
発行責任者:葛岡 成樹

■ 論説-1:欧州の宇宙通信メッシュネットワークIRIS2 (葛岡)

■ 論説-2:(都合により休載: 大石)

■ 論説-3:ロシアによるウクライナ侵攻から1年 (村上)

■ 論説-4:新たな米宇宙軍トップが取組方針を表明(後藤)

論説-1:欧州の宇宙通信メッシュネットワークIRIS2 (葛岡)

2月14日、欧州連合EUの議会にあたるEuropean Parliamentは、新しい通信衛星コンステレーションInfrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satellites (IRIS2)の開発を賛成603票、反対6票、棄権39票の賛成多数で可決した。IRS2は総額6B Euroとなる大型プログラムであり、EU政府が2.4B Euro拠出することが決まり、残りの3.6B Euroは民間が負担することになった。またEU政府としてはこのプログラムの30%は欧州のスタートアップ企業が参画することを期待しているとのこと。

このプログラムは2022年2月に欧州政府ECが提案し、一年間議論を続けてきた。昨年の秋欧州宇宙機関ESA大臣級会合がこのプログラムを承認したことで地ならしはできていたが、今回いよいよEU政府として正式に決定し、予算化された。このプログラムの完成は2024年末とされている。

さて、このIRIS2とは何だろうか。もともとSecure Connected Systemと言われていたように、EU政府として安全な衛星通信サービスを提供するとともに北極域でのブロードバンド通信を確保するものである。測位のGalileo、地球観測のCopernicusを補完するものとされている。

このIRSI2の内容はまだ明らかになっていないが、各メディアの論評を見ると米国のStarlinkまたSDAのTranche 0に対抗する欧州の衛星通信コンステレーションという位置づけが見えてくる。OneWebがEUを離脱した英国政府の資本を受けており、ここでEU独自の通信衛星システムを保有する必要性が出てきたということだろう。

漏れ聞こえるところだと、衛星間光通信を利用してメッシュネットワークを構成するという基本的なアイディアはTranche 0などと同じ構想のようだ。つまりこのIRSI2は従来基本的には一対一もしくは一対多(放送)の世界であった衛星通信を、地上のLANと同様にメッシュネットワークとして構成しようというものである。どこかのパスが利用不能になっても他のパスを迂回することで通信全体の機能を確保するというメッシュネットワーク、地上の通信では当たり前の構成がいよいよ衛星通信の世界でも実現する。

このメッシュネットワークを構築するには衛星間光通信ターミナルは単なるツールの一つであり、本質的に衛星通信でのルーティングをどのように構成・確保・アップデートするかというところが最大の課題になろう。地上ではLanが一時瞬断したとしてもルーティングを大きく再構築することはなくて済むが、コンステレーションの衛星では衛星の切り替えが頻繁にまた定常的に行われるため、その都度ルーティング情報を再構築する必要がある。

米国政府のSDA Tranch0、米国民間のStarlinkやKuiper、また英国のOneWebに続いてECもIRIS2の実現に向けて動き出した。

日本も経済産業省/NEDOが光通信等の衛星コンステレーションを実証するということで現在業者選定が進んでいる。スケジュール的にはSDA Tranche0はいよいよ今年から構築が始まるし、IRIS2も現在の決定を信ずれば2024年にサービス提供が開始される。

日本の計画の場合、宇宙実証機打上が2027年度で、2028年度から実証を開始するとのこと。SDAやEUが政府として実証ではなく実用システムを数年後に完成させるというスピード感のなか、日本のプログラムは動きが遅いし、また実証だけのプログラム(総額最大600億円)というのは中途半端である。日本として一からメッシュネットワークを構築するのが困難であれば、他のメッシュネットワークにインターオペラビリティをもってメッシュネットワーク間の接続・統合などにより参加するなど、少し違った観点からの参入を考えてみてはどうだろうか。

論説-3:ロシアによるウクライナ侵攻から1年 (村上)

2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。当初は、半月、長くても数ヶ月で戦争は終結するとの見方が一般的であった。しかし、1年経った今も戦闘は止むどころかむしろ激しさを増している。この戦争における宇宙の関りについて少し考えて見た。
良く言われている様にロシアは、ウクライナは余り抵抗することは無いと踏んでいた。戦争の準備も十分でなく、制空権を短時間で掌握出来ると思っていた。

しかし、予想以上の抵抗を受けることになるのと制空権の制圧も出来ないでいる。基本的にウクライナは火砲で数倍劣っていると兵力も数分の一である。
この差を補うには適格な攻撃情報を得るしかないと考える。米国やNATOは、独自の衛星データに加えて、民間の高精度のデータを逐次ウクライナ側に送り、このデータをベースに敵の急所の攻撃を行って来た。民間の衛星データでロシアからキーウに向かう補給トラックが数珠つなぎになっている衛星写真は記憶に鮮明に残っているかと思う。
従来の戦争でも衛星画像は活用されることがあったが、ここまで活用されるのは過去になかったと思う。

ピンポイントで攻撃する方法として、低軌道衛星からの位置情報が活用された。従来、GPS等の位置情報が活用されることがあったが、衛星を持たない国に取っては、位置情報の獲得は容易ではない。当初は通信網の確保で依頼を受け、提供したStarlinkが活躍することになった。最近、Space-XはStarlinkは戦争の為に提供したのではないと言い始め、サービスを制限し始めた。既に2022年3月にNYタイムズが、ウクライナ軍がロシア軍を攻撃するドローンにStarlinkのデータを活用していると報道していたのに今更と言う感じを持つ。
しかし、Starlinkのビジネスと言う観点で考えると世界中にサービスを展開する一方で重要な顧客である米軍向けのサービスも考える必要がある。

世界中の人が使えるのと同等のサービスを米軍が使うことは優位性の確保と言う観点で許されることでは無い。別な観点で言うとStarlinkのサービスは民生用をベースとしているので利便性のみを優先していたとも言えるだろう。気が付いて見ると世界中の人が位置情報の獲得が出来ることは望ましいことではあるが、ある意味困った状態を作る可能性が分かったとではないだろうか。
Space-Xは今のまま高精度のデータを提供し続けるのは今後の世界のビジネスを考えた時に良くないと判断したと考える。

何れにしても宇宙画像データや衛星測位、通信網がここまでしっかり機能したのは初めてではないただろうか。
宇宙からの衛星画像データを有効活用して、位置をしっかり把握して、誤射を極力無くして、確実に敵を仕留めることにより早く戦争を終わらせて貰いたいものだと願っている。侵攻から1年、夏までには領土の奪還を終えて、戦いが終わることを切に願っている。

論説-4:新たな米宇宙軍トップが取組方針を表明(後藤)

2023年1月、米宇宙軍トップである作戦部長(CSO:Chief of Space Operations) チャンス・サルツマン大将(Gen. B. Chance Saltzman)が、宇宙軍における3つの取組方針(LOE:Lines of Effort)を明らかにした。サルツマン大将は、2022年11月に初代CSOレイモンド大将(General John William Raymond)から宇宙軍トップを引き継いだばかりである。サルツマン大将は1969年ケンタッキー州生まれ。ボストン大学で歴史学を学んだ後1991年に空軍に入り、NRO(National Reconnaissance Office)での衛星打上げ運用、AFSPC (Air Force Space Command)でのプログラム計画担当などを経て、2020年の宇宙軍創設時に宇宙軍に異動した。この間、2016年からは現在DoDで進めているJADC2(Joint All-Domain Command and Control)の前身であるMDC2 (Multi-Domain Command and Control)の開発に手腕を発揮し、「マルチドメイン作戦の父」と呼ばれているそうである。(JADC2:ISR(情報、監視、偵察)活動で得た情報を陸海空や宇宙の各軍、海兵隊が共有し、意思決定の迅速化と最適化を図るもの)

取組方針は、3通の宇宙軍兵士(Guardians)に対する司令官のメモという形で示された。  

一つ目の取組方針は「戦う準備の整った部隊の配備」である。レイモンド大将は抗たん性やレジリエンスを備えた宇宙システムの構築を目指したが、サルツマン大将はそれを拡張し、衛星だけでなく地上システム、ネットワーク、データ、サポート施設、さらにはそれらを運用する熟練した人員とその教育・訓練が重要であることを訴えている。そして宇宙軍には以下の3つが必要であるとしている。

  1. レジリエントであり、敵の攻撃に耐えて戦い抜けること
  2. 戦闘準備が整っており、厳しい環境下で任務を遂行できること
  3. 信頼できる戦闘能力を有し、攻撃・防御いずれでも作戦を遂行できること

これらを実現するためには、DOTMLPFPを積極的にアップデートしていくことが必要としている。(DOTMLPFP:Doctrine and Operational concepts, organizational constructs, Training, Material acquisition, Leadership education, Personnel structures, Facilities, and Policies )

二つ目の取組方針は、「ガーディアンスピリットの強化(ガーディアンは宇宙軍兵士の名称。日本風に言うと「宇宙軍魂の鍛錬」というところか?)」である。宇宙軍魂を持つガーディアンは次の3つの特徴を併せ持った兵士であると述べている。

  1. 誠実な公務員:献身的に国・国民に仕え、国民に信頼される兵士
  2. 宇宙の専門家:宇宙能力を深く理解した熟練の兵士
  3. 革新的かつ協力的な問題解決者:絶え間なく挑戦を続け、周囲と協調しながら革新的なアイデアで問題を解決する兵士

最後の取組は「勝つための協力」である。宇宙能力は協力の上に成り立つものであり、宇宙軍が最高の能力を持っていたとしても単独では任務を遂行することはできない。そのため、政府・DoD内はもちろん、学術界や産業界、そして同盟国・友好国とのパートナーシップ構築が不可欠であり、これを強化していくことが必要と述べている。

これら三つの取組はレイモンド大将が掲げた方針を変更するものではなく、それを拡張・強化していこうということであり、創設後間もなく、米軍内では比較的小さい組織である宇宙軍を有効かつ強力な組織としていくために兵士に向けたメッセージと捉えることができる。

さて、米宇宙軍の取組方針を我が国の状況を比べてみると、宇宙基本法が成立して15年を経過し、ようやく防衛省の宇宙利用が本格化してきたものの、宇宙システム(衛星、地上系など全て)の装備化はまだまだ十分ではなく、要員の教育・訓練もこれからというところであろう。またパートナーシップに関しても、米宇宙軍等同盟国・友好国との連携にはセキュリティの壁が依然として存在しており、早急な課題解決と連携の強化が必要である。本年夏ごろに策定が予定されている宇宙安全保障構想においては、米宇宙軍の状況も踏まえつつ、我が国の安全保障に必要な事項をしっかりと盛込むことが必要である。


【Euroconsultレポート紹介】

The optical communications report covers the following topics:

  • Market context
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  • Users and demand forecast over the next decade
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2023年2月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■下院が商用リモートセンシング法案を可決[NO.003]
■LM、新たな中型バスの最初の実証機打上げ[NO.005](図-1)
■TAS、韓国のGEO-KOMPSAT-3衛星にTETRA電気推進を供給[NO.013]
■CACI、宇宙技術において米軍と協力[NO.016](図-2)
■EchoStar、来年には世界的なIoT市場へ挑戦[NO.020]
■Raytheon Technologies、米陸軍のプロジェクト・コンバージェンス向けコネクティビティソリューションをデモ[NO.021]
■Maxar、同盟国への画像供給1億9200万ドル契約獲得[NO.022]
■EchoStar、28基の小型衛星コンステの構築開始[NO.024]
■SES、ThinKom + Hughes、重要な航空ミッションのためのマルチ軌道レジリエントなコネクティビティを実現[NO.027]
■Viasatは、GEOおよびLEOのスマートフォン向け直接接続サービスでの提携を検討中[NO.029]
■インマルサット、独自のLEOコンステレーション発注に前向き[NO.033]
■欧州、ViasatのInmarsat買収の本格的な調査を開始[NO.044]
■中国と欧州、衛星全体共同組立などを初めて実現[NO.046]
■Androidスマホも衛星通信対応へ「Snapdragon Satellite」発表[NO.049](図-3)
■国防総省のMUOSと従来システムのクロスバンド接続に成功[NO.055]
■来るべき中国のメガコンステレーション革命[NO.061]
■ルクセンブルク、欧州+NATOにO3b mPOWER活用[NO.062]
■Bullitt、 衛星通信対応のAndroidスマートフォン発表[NO.063]
■サムスン、スマートフォン向け衛星通信ソリューションを発表[NO.064]
■中国、ハイスループット通信衛星「中星26号」打上成功[NO.067]
■Hydrosat、空軍の熱赤外データ解析契約獲得[NO.012]
■Anuvuの小型衛星コンステレーションは、Telesat地上インフラを使用[NO.019]
■Astranis社、宇宙軍から軍事衛星を商業衛星に搭載する契約を獲得[NO.041]
■Maxar、Umbra社とレーダーイメージング衛星への直接アクセスに関する契約を締結[NO.042](図-5)
■欧州、多軌道コネクティビティコンステレーション計画を承認[NO.045](図-6)
■Black Sky、Inmarsat及びAddvalueが、 IDRS™で地球観測を加速[NO.054]
■Capella Space、米国の防衛市場に焦点を当てた新しい子会社を設立[NO.004]
■SateliotとSentrisense、電力網の監視で提携[NO.018](図-7)
■アマゾンが3,000基以上のLEOブロードバンド衛星についてFCCから重要な承認を取得[NO.030]
■スペースX社長、衛星ネット事業は今年黒字化と表明[NO.035]
■アクセルコム+TTP、5G NTN LEOで宇宙から携帯電話サービスを提供へ[NO.036]
■中国の気球行路追跡に衛星画像を使用するAIスタートアップ[NO.050](図-8)
■Terran Orbital、$2.4BのRivada Space Networks 社契約発表[NO.058]
■Capella、レーダー画像の利用を促進するために分析会社と提携[NO.059]
■Rivada、ITUマイルストーン期限に対応したコンステの打ち上げを確保したと発表[NO.060]
■LigadoとOmnispace、ダイレクト・トゥ・デバイス市場に向けて提携[NO.065]
■スペースX、第2世代スターリンク衛星「V2 Mini」打上へ[NO.069]
【打上】■中国初の商用ロケット打ち上げ場 海南に建設[NO.007]
■韓国、ロシア制裁に伴い延期の打上げにVega C選定[NO.009]
■ISRO、小型衛星用ロケット「SSLV」2回目試験打上実施[NO.031]
■小型打上げ業者は、近い将来廃業危機に見舞われる可能性があると警告[NO.025]
■SpaceX社がインマルサット6号機F2を打ち上げ、端末間直接接続サービスに弾みをつける[NO.053]
■スペースXが大型ブースター「スーパーヘビー」の点火試験実施 31基のエンジン同時点火に成功[NO.032](図-9)
■Launcher社の最初の軌道遷移機失敗[NO.051](図-10)
【その他】■アフリカ連合委員会、アフリカ宇宙庁を発足[NO.006](図-4)
■5カ国から参加の学生チームが火星探査機開発プロジェクト「KARURA」発足 2024年の国際大会で勝利を目指す[NO.008]
■IBMとNASA、AI活用の気候変動研究で協業[NO.014]
■宇宙ゴミを減らすESAの新たな取り組み–「天使の羽」[NO.015]
■中国、南極に衛星地上局を建設[NO.017]
■KSATが南極の4基のアンテナを含むグローバルな地上波ネットワークを拡大[NO.023]
■ペロブスカイト太陽電池を保護する厚さ1µmの二酸化ケイ素膜 宇宙・地上両方の環境で寿命を伸ばすことを確認[NO.028]
■Orbit Logic 社が航空宇宙・防衛関連企業のBoecore社に買収された[NO.039]■欧州スタートアップ、宇宙ステーション輸送機向$44M調達[NO.011](図-11)
■Loft Orbital、政府及び防衛向新たな子会社設立[NO.034]
【国内】■スカパーJSAT、宇宙データ協会に加盟[NO.026]
■H3ロケット1号機、ブースター着火せず[NO.046](図-12)
■「H3」打ち上げ中止、原因はエンジン電源系統異常 文科省公表[NO.057]
■東京・日本橋を「宇宙の街」に 三井不が4月に交流拠点[NO.038](図-13)
■三井不、宇宙産業活性化 一般社団「クロスユー」設立   [NO.040](図-14)
■Space CompassとSkyloom、地球観測市場向けにアジア初のGEO光データ中継サービスを実現[NO.043]
■IHIエアロ、「宇宙」向け点滴装置の試作品開発 ニプロ・宇宙ベンチャーISLと連携[NO.052]
■三菱電機がアストロスケールに出資 安全保障用途の衛星バス共同開発・製造に向けた協業に合意[NO.068]
■横河電と千代化、27年めど「月の水」探査 プラント技術を宇宙事業に生かす[NO.001]
■民間ロケット、3回目の発射延期 コロナ禍で部品調達できず 和歌山[NO.002]
■宇宙港で地域活性化 大分・佐伯市など3者連携[NO.010]
■IST、ZEROフェアリング分離放てき試験成功[NO.037](図-15)
■アクセルスペース、EO小型衛星向Ka帯無線機開発成功[NO.056](図-16)
■「スターリンク」、東京都が試験導入へ 衛星経由でWiFi利用も[NO.066](図-17)