海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2022年9月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:大石強
発行責任者:葛岡 成樹

■ 論説-1:デブリ回避のためのFCC新ルール (葛岡)

■ 論説-2:21世紀のスプートニク・ショック/中国量子衛星 (大石)

■ 論説-3:IAC参加報告 (村上)・・・別途配布

論説-1:デブリ回避のためのFCC新ルール (葛岡)

今年の9月、葛岡はEuroconsultのWorld Satellite Business Week(WSBW)とIACに出席するため9月10日から23日と2週間フランス・パリに出張していた。マンスリーニュースに合わせて出張報告をまとめるつもりであったが、まだ時間が取れていない。

ただ一言で言えばスタートアップをはじめニュープレイヤーがどんどん参加し、宇宙ビジネスの選手交代を印象付けたWSBW、カネの匂いはしないが威信をかけて発信している各国・各宇宙機関と、フランス南部のAerospace Valleyやスペインカタルーニャなど宇宙関連企業が集積している地方の宇宙産業団体が目に付いたIACというところだろうか。

出張報告よりも今月皆様にお伝えしておかねば、と思ったのは米国通信委員会(FCC)が新たに発表したデブリ回避のための新ルールである。従来は、高度2000km以下の衛星はミッション終了後25年以内にデ・オービットさせるというルールがあったが、これを5年に短縮するというものだ。この新ルールは2年間の猶予期間後適用されるとのこと。

この新ルールに対し、賛否両論の声が起こっている。さっそく当の米国政府の各部署から、この新ルールは時期尚早であるとの疑問(反論?)が上がっている。もちろんデブリ除去サービス企業やスラスタメーカーにとっては大賛成というところであろう。

この新しいガイドライン、まだまだ議論は続くだろうし、筆者の周りでもいろいろディスカッションが始まった。

  • 従来の、25年かけてデ・オービットするというのは「ガイドライン」であったが、今回の5年は明確な「要求」という扱いの違いが気になる。
  • 米国以外の国もこの新ルールに追従するのだろうか。
  • 打上直後にすでに通信が途絶して運用できない衛星もかなりの数あるが、この運用不能な衛星も5年でデ・オービットする必要があるのか、できるのか。

FCCの狙っている方向性は正しいとして、2年間の猶予期間の間にこれらすべてに実現可能な解を探し出す必要がある。まあそれだけデブリを除去しなければという危機感がますます高まってきているということだろうが。

論説-2:21世紀のスプートニク・ショック/中国量子衛星 (大石)

《量子衛星暗号通信開発動向:先行する中国、挽回を図る欧州》

衛星量子暗号通信は、次世代の高度セキュリティ技術として注目を集めており、日本を含め、世界的に研究開発が進められている。量子衛星通信のアプリケーションとしては、まず第一に安全保障があるが、その他にも金融及び商取引など高いセキュリティが求められる分野においては必須技術となると考えられる。

筆者も昨年6月の論説にて、中国及び欧州における量子衛星通信に関する動きを取り上げたが、先々月には中国が2基目の衛星を打上げ、また、今月、パリで開催された国際航空宇宙会議(IAC)において、欧州が初の量子通信衛星打上計画を発表する等、新たな動きが相次いだ。それらを含む海外における最近の主な打上げ計画などを右表に示す。

右表に示すように『宇宙強国』を目指す中国は、初号機Micius(墨子)衛星、さらに、それに続く2号機Jinan-1(済南)を既に打上げている。
2号機においては、実用的なグローバルネットワーク実現に向けた低コスト化等を考慮して、衛星サイズを1号機の約1/6の100kgまで低減している点が注目される。また、 2021年には世界初の統合量子通信ネットワークを確立している。
これら中国の動向については、一部では『21世紀のスプートニク・ショック(注記-1) 』あるいは『量子時代のスプートニク・ショック』と評されており、量子衛星通信分野の実績面では、中国が圧倒的に抜け出している。

一方、欧州が今回IACにおいて発表したEagle-1は、EuroQCI(注記-2)との結び付きを持っているとともに、欧州委員会(EC)のSecure Connectivityにも組み込まれる可能性がある。また、SESが将来の商用化も視野に入れている点からも、今後の進捗が大いに注目される。

衛星による実証は、現状、まずは、LEOで進められつつある状況であるが、将来的には、現在検討されている多軌道システムなどにも組み入れられていくものと考えられる。

尚、今のところ、あまり陽には報道されていないが、当然ながら米国においても開発が進められていると考えられ、大きく先行する中国に対し、西側諸国が今後どのようにキャッチアップできるのかという点を含め、継続的にモニタしていく予定である。

IACにおける契約署名:SESのCEOであるスティーブ・カラー (着席、左) と ESA のジョセフ・アッシュバッハー事務局長は、9月22日、Eagle-1衛星の契約に署名 (Credit: SpaceNews/Jeff Foust)

CAS:Chinese Academy of Sciences
IAC:International Astronautical Congress
JIQT:Jinan Institute of Quantum Technology
QKD:Quantum Key Distribution
SAST:Shanghai Academy of Spaceflight Technology
USTC:University of Science Technology of China

注記-1:宇宙業界においても若い方々の中には聞いたことがないという方もいるかもしれないが、スプートニク・ショックとは、1957年10月4日のソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功の報により、米国を始めとする西側諸国の政府や社会が受けた衝撃感、さらに危機意識を指してる。

注記-2:EuroQCI(European Quantum Communication Initiative)は、ESAがサポートし、エアバスがリードする欧州の企業コンソーシアム(伊の航空防衛企業Leonardo,会計事務所PwC France and Maghreb、仏の通信虚巨大企業Orange、伊のCNR研究協議会、NRiM気象研究所等が参加)。

論説-3:IAC参加報告 (村上)・・・別途配布

  別途配布の参加報告を参照願います。

2022年9月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■Intelsat Galaxy15はPLをミュートし、他衛星パスにドリフト[NO.008]
■中国、リモセン衛星「北京三号B」打ち上げ成功[NO.010]
■Thales Alenia Space + Eutelsat が提携し、EUTELSAT KONNECT VHTS 衛星で欧州全体に高速BB配信[NO.011](図-1)
■中国の十数基の衛星、地震救助活動を支援[NO.020]
■BAEシステムズ、軍事情報向マルチセンサー衛星クラスター開発[NO.022](図-2)
■FCC、軌道離脱LEO衛星の5年間の期限を設定[NO.031]
■大規模な事業者の統合は長年待たれている[NO.034]
■衛星データサービスの需要急増/ユーロコンサルトの予測[NO.035]
■KT SATは、Koreasat 6A通信衛星を ThalesにオーダNO.038]
■Koreasat 6衛星製造監督、Satconsultが提供[NO.047]
■ヒューズ、消費者向の新高速+低遅延衛星サービスプラン[NO.048]
■Viasat Inmarsat 買収、英国国家安全保障審査クリア[NO.058]
■新しい報告書は、国防総省のマルチ軌道計画に疑問を提起[NO.064]
■国防総省、GEOミサイル警戒衛星の調達を終了[NO.071]
■SES主導Gが2024年に欧州向量子セキュリティ衛星配備[NO.073]
■L3Harris のミサイル追跡衛星、新設計Maxar バスを使用[NO.077]
■中国、リモセン衛星応用国家工学研究センターが設立[NO.088]
■Blue Canyonは、 DARPAの Blackjackコンステ向の最初の
   衛星バスを納入[NO.028](図-5)
■EutelsatとOneWeb、第二世代LEO計画を検討[NO.036]
■MDAは、エアバス・OneWeb衛星のKa帯ステアラブルアンテナ製造[NO.039]
■宇宙データ中継分野での競争激化[NO.042]
■Speedcast は、エンタープライズおよび海事向けの最初のStarlink 再販業者契約を締結[NO.043]
■Satlantis、マルチスペクトル用に OHB衛星をオーダ[NO.055]
■Appleは、iPhone 14における緊急衛星サービスにGlobalstar選定[NO.057]
■APACアジア太平洋地域で増え続けるOTTコンテンツをサポートするSESとMolaの新たなパートナーシップ[NO.067]
■アマゾンとテレサット、NGSOコンステスペクトラム調整[NO.072]
■NRO RFデータの商用プロバイダー6社と契約を締結[NO.089]
■Satellite Vuが Viasat と提携[NO.094]
■FCCは、新たな軌道上デブリルールを承認[NO.096]
■Starlinkがクルーズ ライン顧客確保[NO.003](図-6)
■Astra Space、Airbus OneWeb衛星のArrow小型衛星にAstra衛星エンジンを供給[NO.004]
■Fleet Spaceは、3Dプリンティング機能を備えた新しい製造施設を発表[NO.024](図-7)
■スペースXがスターリンク衛星46機打ち上げ [NO.026]
■MarlinkとOneWeb が LEO 接続サービスの最初のライブ海上試験向準備[NO.029]
■HawkEye 360、公開に向け、新資金調達ラウンド計画[NO.032]
■中国の民間衛星インターネット企業GalaxySpaceが大規模な新規資金を確保[NO.033]
■IceyeとSatlantis、光学&レーダ衛星コンステ提案[NO.049](図-8)
■変化抽出分析用に構築されたEarthDailyコンステ[NO.053]
■衛星レーダーのスタートアップは商業市場の重要性論争[NO.060]
■Lync Globalが初の商用衛星ダイレクト・トゥ・セル運用ライセンスを取得[NO.063]
■Sateliotは、衛星への直接IoT接続のためのクラウドネイティブ5G衛星ネットでAWSと協力[NO.083]
■Network InnovationsがhiSkyとIoT接続契約を締結[NO.084]
■Lynk Globalは、12月に実験用5Gペイロードを展開[NO.090]
【打上】■ロシア、イランの地球観測衛星と小型衛星16機を打ち上げ[NO.012]
■2 回目の Artemis 1 の打上げは停止[NO.013]
■NASAの月探査計画SLS打上は日本時間9/28以降に[NO.040]
■中国、2日間で3回の軌道打上げ実施[NO.082]
■アリアン5ロケット打上成功 タレス製造の最大の衛星[NO.095]
■アリアンスペースとOneWeb 打上中止の和解に至る[NO.041]
■MDAによる宇宙ロボット技術の2度目の商用販売をAxiom Spaceへ[NO.079]
■New Shepard、無人サブオービタル飛行中に中断[NO.045]
【その他】■英国が軍事「宇宙大国」ドクトリンを発表[NO.006]
■SSTL 英・豪宇宙パートナーシップ支援向に新オフィス開設 [NO.015]
■Aerospace、軍事宇宙活動向設備をオープン [NO.019](図-3)
■中国が開発を進める深宇宙探査機 原子力の利用を想定[NO.027]
■ESAは閣僚級で大幅な資金増額を目指す[NO.044]
■投資家は、短期的な課題の中で宇宙産業の長期的な視点を取る[NO.050]
■帯域幅に飢えた地域の衛星オペレーターがオプションを模索[NO.051]
■フランス:宇宙支出を25%増加[NO.062]
■宇宙軍はリソースを諜報とサイバーセキュリティにシフト[NO.065]
■SSC、月面ミッションのための高度地上NW開発[NO.068]
■アルテミス協定の署名国が初会合を開催[NO.069](図-4)
■「DART」探査機が小惑星への衝突に成功![NO.086]
■Speedcastは、ブラジルのエネルギーインテグレータ向にNokiaのプライベートLTEネットワークを展開[NO.093]
■「iPhone 14」発表 衛星通信に対応、799ドルから [NO.023]
■スタートアップ、月面ミッションで高度なコンピューティング技術をテスト[NO.037]
■マイクロソフトはAzure Spaceの拡大を継続[NO.046]
■Astrobotic、月面電力サービスの計画を発表[NO.061](図-9)
【国内】■AM研究会がKOM 3Dプリンター産学官連携[NO.001]
■JAXA、H3ロケット年度内打上へ 11月試験で判断[NO.005]
■NEC 宇宙向光通信機を試作 毎秒10ギガビット[NO.017]
■NICT先端研究/情通機構 量子技術で情報対策変[NO.018]
■先進光学衛星だいち3号公開 三菱電、[NO.070](図-10)
■iPhone 14で始まる「衛星通信」KDDI・NTTも検討[NO.074]
■KHI、H3試験1号機フェアリング出荷[NO.075](図-11)
■月着陸実証機の打ち上げ延期 H3ロケット優先[NO.080]
■アストロスケール、JAXA宇宙ごみ除去実証で前倒し技術検討契約に採択[NO.002]
■イプシロンロケット6号機に搭載、ベンチャー開発の衛星含む3機公開 10月7日、内之浦から打ち上げ [NO.009](図-12)
■ホンダ、JAXA月探査車開発参画 燃料電池システム[NO.052]
■アストロスケール等、軌道上サービス技術の研究契約を宇宙軍から獲得[NO.091]
■三井住友海上「宇宙保険特設コンテンツ」を開設[NO.014]
■北海道スペースポート、宇宙版シリコンバレー実現へ前進人工衛星用ロケット発射場、滑走路延伸着工[NO.030]
■Synspectiveが3号機打上 小型衛星網構築進める[NO.056]
■ブリヂストン、米有人月面探査車開発に参画[NO.066]
■アストロスケールとNorthStar、スペースサステナビリティに貢献するための宇宙技術の開発に向けて提携[NO.078]
■UKは、マルチ・デブリス除去ミッションにAstroscaleとClearSpaceをショートリスト[NO.081]
■東京海上日動火災保険株式会社が「みんなのロケットパートナーズ」に新たに参画[NO.085](図-13)