海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2022年5月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:大石強
発行責任者:葛岡 成樹

■ 論説-1:4Sシンポジウム参加報告(葛岡)・・・別途送付

■ 論説-2:活発化する北極圏のコネクティビティ競争(大石)

■ 論説-3:ライドシェアビジネスについて(村上)

論説-1:4Sシンポジウム参加報告(葛岡)

4Sシンポジウムに出席しました。参加報告は別途送付します。

論説-2:安全保障上の重要度の高まりととともに、活発化する北極圏のコネクティビティ競争(大石)

今月は、中国の量子通信実験及びインマルサットのメッシュネットワーク通信向トライアル等をはじめ、衛星通信及びコネクティビティの今後の動向にも影響する様々なトピックスが報道された。

その内、以下の点から、北極圏におけるコネクティビティ動向に注目した。

  1. 現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻、同影響を受けたスウェーデン及びノルウェーのNATO加盟申請に伴う北極圏におけるコネクティビティの重要度の高まり
  2. 米国政府の安全保障向Starlink及びOneWebなどの商用サービス利用拡大の動き

右表は、北極圏のコネクティビティ関連の動向を昨年以降のスペースニュース報道などを基に整理したものである。

商用サイドでは、近年の地球温暖化に伴う氷の減少による航海の難しさの軽減もあり、北極圏の商業海事市場(北海路を利用した商船、北半球の高緯度を通過する旅客探査クラスのクルーズ船、漁業、石油とガスなどの天燃資源探査の可能性等)に対する需要増が見込まれている。

一方、安全保障の観点では、北極圏の通信確保を重視する米軍は、商業衛星を戦術的及び戦略的通信のための軍事ネットワークと統合する新しい実験を2019年頃から計画し、実施中である(北極圏における通信ギャップ解消が目的)。同実験は、年内完了を目標とし、次ステップは、統合するサービスを通じた端末提供を目標としている。本プロセスにおいて、米軍は、単一の企業、または、単一コンステのみへの依存を回避するため、必要に応じて宇宙インターネットプロバイダの切り替えを可能とする提案を求めている。現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻などに伴い、北極圏におけるコネクティビティの重要度は益々高まるため、今後、上記計画の加速化等も想定される。

商用LEOコンステとしても、どの程度のビジネス規模になるかは不明であるものの、GEO衛星では難しい高緯度アクセスという特性を生かした差別化が可能であり、北極圏におけるサービス提供は、アンカーテナントとして米軍を確保する上でも重要と考える。

尚、衛星コネクティビティについては、6月初めにシンガポールで開催されるAsia Satellite Business Week (ASBW)においても主要テーマの1つとなっている。ASBWは、Euroconsultがアジアで主催する初めてのコンファレンスで、当方も参加予定であるが、北極圏とは全く異なるアジアにおいて、どのような景観が見られるのかを楽しみにしている。

企業・PJT名等北極圏におけるコネクティビティ関連の動き及び計画
OneWeb現在、アラスカ、カナダ、グリーンランド、ノルウェーに多数のユーザー端末を設置している。また、ノルウェーのスバルバードに14のアンテナを運用しており、ゲートウェイ局は、Hughesが開発。OneWebとHughesチームは、1日24時間の高スループットサービスの提供を目標。同チームは、米軍の衛星を使用しての北極圏遠隔地の前哨基地から通信の提供試験を実施中。
Starlink/Space-X2021年1月に極軌道への最初のバッチを打上げ。米軍は、Starlinkを使用してOneWebと同様の試験を実施中(Space-Xは、2018年12月にDEUCSIプログラムの契約を確保し、軍が3年間にわたり、スターリンクを使用する方法について試験中)。
O3b mPower /SES今年衛星の配備を開始することを目的とした次世代の中軌道(MEO)ネットワークであるO3b mPowerで北極をカバーするために傾斜軌道を使用することを検討中。
ASBM/インマルサット、ノルウェー国防省、及び米空軍のJV2023年に2基の衛星を長楕円形軌道に展開予定。米軍は、EHFペイロードを搭載。また、ノルウェー国防省は、X帯軍事通信に利用。一方、インマルサットは、Ka帯により、グローバルXpress(同社高速衛星通信サービス)のカバー領域の拡張を目標。
RSCC/ロシア北極圏の奥深くまでカバレッジを拡大するために、今後数年間で長楕円形軌道にある4基の衛星をフリートに追加する計画。
Telesat/カナダ政府の資金援助と引き換えに、カナダ最北端の先住民族コミュニティと計画中のLEOコンステをつなぐことを約束。
Iridium communication過去何十年もの間、極上で継続的なカバレッジを提供できる唯一の事業者として、携帯電話やさまざまな監視および追跡アプリケーションなどの帯域幅ビジネスを提供中。

ASBM: Arctic Satellite Broadband Mission
DEUCSI: Defense Experimentation Using Commercial Space Internet 
RSCC: Russian Satellite Communications Co.

論説-3:ライドシェアビジネスについて(村上)

ライドシェアとは、「ライド=乗る」を「シェア=共有」することなので、「相乗り」や配車サービスを指している。地上での相乗りサービスは、世界で大きく拡大している。アプリなどで車と人をマッチングすることが一般的になっている。UberやLyft、東南アジアでのGrabが有名でビジネスとして社会に定着している。

一方で我が国はと言うとタクシーとアプリを組み合わせたサービスは展開されているもの所謂ライドシェアビジネスは浸透していない。この理由は法律的に認められておらず、実質的な鎖国政策による。

宇宙の打上げ分野のライドシェアに目を向けると米国にて小型衛星に打上げ機会を提供するサービスを2011年にSpaceflightが開始し、その後、推進系を装備したTagと言う相乗りシステムを開発してユーザの要望に応じた軌道に投入するサービスを展開して来ている。

元々は、打上げブロカーとして打上げ機会を仲介する立場であったが、それを発展させて、販売からインテグレーションまで一貫したサービスを提供するまで発展させて来ている。

米国では、推進系に強みを持つ、Momentous Spaceもライドシェアから燃料俸給までサービスを展開しつつある。Space-Xの工場の直ぐ近くに事務所を構えてSpace-Xと緊密に連携を行っているLauncher Spaceも新興企業としてサービスを開始しようとしている。

欧州に目を向けるとBerlin工科大学のスピンオフとしてサービスを開始したExolaunchがSoyuzで実績を積んだ後、現在はSpace-Xでのライドシェアミッションも手掛ける様になって来ている。また、オランダのISISも規模は小さいながらもライドシェアを提供している。

ビジネスモデルとしては、それ程複雑なものでは無く、ブローカの機能とインテグレーション、輸送を組み合わせたもので比較的シンプルである。しかし、小型衛星はスケジュール変更が頻繁に起こることや、契約的にも大型衛星と比べると緩やかなものにならざるを得ないことから、手間が掛るのが実情である。大型衛星の顧客は1,2なので対応する労力は限定的であるもの100機も衛星があると顧客対応も時間を取られるのは避けられない。

これらの作業を少しでも軽減する為、インタネットによる販売や電子化によるインテグレーションの簡便化や纏まった顧客や政府ミッションをベースとして確保する等の対策が取られている。

先日、発表された基本計画の見直しの重点施策でもH3にライドシェア機能を追加する開発が盛り込まれた。現状、海外で展開されるライドシェア機能を追加することは望ましいと考えている。ハードに加えて日本の企業でライドシェアビジネスを行っている企業のKnow‐Howも活用してビジネスを成功に導いて欲しいと期待している。


海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース ASBW 2022
海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース WSBW 2022

2022年5月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■NOAA、新しい衛星センサーとデジタルツインへの入力探求[NO.014]
■SESとESA、MEOコンステGovSatComとして使用[NO.017](図-1)
■中国Siweiは、 SuperView Neoの30cm画像発表[NO.020]
■Telesatは、LEOコンステ衛星数を100基削減[NO.021]
■中国の「墨子号」が新記録となる1200キロ離れた場所への量子状態転送に成功[NO.022]
■中国、リモセン衛星「吉林1号広域01C」打上げに成功[NO.024]
■SESは、直接ハンドヘルド5G衛星ビジネスを検討[NO.032]
■サウスウエスト航空、ViasatのIFCシステム選定[NO.033](図-2)
■Spacecom、初の顧客を獲得後、海洋ビジネス拡大計画[NO.042]
■軍事実験は、低軌道での衛星間レーザー通信を実証[NO.045]
■Telesat政府ソリューションNASA宇宙間高データレート接続[NO.048]
■Kongsbergは、ノルウェー海上監視向衛星をオーダ[NO.050]
■Telesatは、インドにおいてLEO BBプロトタイプを試験[NO.059]
■インマルサット メッシュNWトライアル足がかりに船使用[NO.060](図-3)
■インマルORCHESTRA、主要港等で追加キャパシティ提供[NO.063]
■SESとKcell カザフにおけるセルNWコネクティビティデモ成功[NO.085]
■北極圏のコネクティビティ競争が激化[NO.038]
■衛星レーザ通信システムは2030年までに100万ドルに成長する見通し[NO.064]
■BlackSky、Maxar及びPlanetは、衛星画像に関する10年間のNRO契約獲得[NO.073]
■英国のOpen Cosmosは、宇宙気象コンステ向ESAファンディング獲得[NO.090]
■北極圏のコネクティビティ競争が激化[NO.038]
■衛星レーザ通信システムは2030年までに100万ドルに成長する見通し[NO.064]
■BlackSky、Maxar及びPlanetは、衛星画像に関する10年間のNRO契約獲得[NO.073]
■英国のOpen Cosmosは、宇宙気象コンステ向ESAファンディング獲得[NO.090]
【打上】■中国、海上から5基の衛星打上成功[NO.002](図-4)
■Atlas 5は、2度目の無人Starliner無人試験飛行打上げ[NO.058]
■NROは、Virgin Orbit ロケット打上げにて英国と提携[NO.027]■韓国のInnospaceは、12月にブラジルの軍事ペイロードを搭載した試験打上げ実施予定[NO.008]
■ロケットラボが「エレクトロン」第1段の空中捕獲に成功[NO.026]
■Virgin Orbit、 QPS研究所のQPS-SAR-5衛星打上げ[NO.031]
■中国のロケット企業、3回連続で失敗[NO.036]
■中国スタートアップOrienspace、シリーズA$59.9M調達[NO.065]
■スペースX、スターリンク衛星。5日間で3回の打上げを実施[NO.078]
【その他】■ISSロシア区画で船外活動実施 欧州ロボットアーム初稼働[NO.004]
■NASAが惑星科学ミッション8件の延長を発表[NO.005]
■DARPAは、原子力宇宙船の開発を進める[NO.013](図-5)
■KSATのKSATLite地上NW、過去最高のトラフィック経験[NO.016]
■中国、旗艦クラスの宇宙望遠鏡を製造 [NO.019](図-6)
■天舟4号、ステーションコンビネーションと自動急速ドッキング[NO.025]
■インマルサットは、地上局のオランダからの移設に合意[NO.037]
■中国、宇宙ステーション補給船「天舟4号」の打上成功[NO.057]
■ボーイングの「スターライナー」がISSにドッキング[NO.061](図-7)
■クワッド諸国は衛星ベースの海事監視イニシアチブを発表[NO.067]
■BRICS宇宙協力連合委員会設立、衛星データ共有開始[NO.077]
■General Dynamics、SDAメガコンステン向地上システム受注[NO.087](図-8)
■GomSpaceは、ESAの北極衛星ミッション向ミッションコントロールシステムの供給契約をKSATと締結[NO.003]
■宇宙軍は、軌道上サービス技術に関する125件の産業界提案を選定[NO.007]
■スペースX、有人宇宙飛行「Crew-4」の打ち上げとISSドッキングに成功  宇宙船は「Freedom(自由)」と命名[NO.023]
■日本の航空自衛隊が、LeoLabsに契約発注[NO.069]
■LMとFilecoin財団は、宇宙での分散型データストレージのデモンストレーションを計画[NO.071](図-9)
■サプライチェーンの課題は、宇宙産業に機会ももたらす[NO.075]
■新型宇宙船「スターライナー」着陸成功! 実用化に向けて一連の試験目標を達成[NO.079]
■付加製造は、ブラケットをはるかに超えて進歩[NO.080]
■Space logistics専門家は、広く標準化を支持[NO.081]
■Gogo のOneWebパートナーシップは、ビジネス航空市場でスターリンクに直面する可能性あり[NO.082]
■Redwire、商業宇宙市場の不安定性を警告[NO.041]
■宇宙システムがロケットラボの収益を支配[NO.044]
■AWS、 22年宇宙アクセラレータにスタートアップ10社選定[NO.068]
【国内】■内閣府など、宇宙事業発掘ビジコン開催[NO.018]
■三菱電機は宇宙におけるアンテナ製造技術開発[NO.049](図-13)
■中国、空自機形のミサイル標的設置か 初確認[NO.053](図-14)
■岸田総理『国産ロケット』打ち上げ能力強化を表明[NO.055]
■日本人宇宙飛行士が月面着陸へ 米宇宙計画日本参加[NO.062]
■政府、国産ロケット打上げ設備拡充へ ウクライナ情勢受け[NO.072]
■九州で製造した衛星を九州から宇宙へ! QPS研究所のSAR衛星がイプシロン6号機で打ち上げへ[NO.001]
■JAXA新事業促進部『輸送/超小型衛星ミッション拡充プログラム』を始動。アイデアを募集[NO.066]
■アストロスケール、スラスタ問題にも関わらず、デブリ除去デモの近接アプローチ実施[NO.011](図-15)
■GSNNで高精度測位 マゼランシステムズジャパン、小型受信モジュール開発[NO.028]
■九工大、ジンバブエ・ウガンダと超小型衛星開発[NO.029]
■政府調達で支援を 自民議連でIST稲川社長[NO.034]
■GITAI,模擬環境軌道上サービス作業実証に成功[NO.035]
■テラスペース「紙の人工衛星」の開発をスタート[NO.040](図-16)
■レーザー搭載衛星、宇宙から山岳遭難捜索[NO.054](図-17)
■三菱商事、モルゲンロケットに出資 分散型コンピューティングサービス構築[NO.076]
■Astroscale、2024年のデブリ除去ミッション資金獲得[NO.088]
■民間宇宙スタートアップ「AstroX(アストロエックス)」設立 〜 衛星軌道投入ロケットを空中発射方式で開発 〜[NO.092]