海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2024年06月30日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:岡屋 俊一
発行責任者:村上 淳

論説:米国企業の動向(村上)

米国の防衛宇宙企業は、数々の再編を経て、大手企業は、Lockheed Martin, Northrop Grumman, Boeing, Raytheon, L3-Harrisに集約されて来ている。
これらの会社は基本的に防衛と宇宙、航空機を専門にしている。Lockheed Martinの前身であるLockheedは1913年の創業であり、合併を重ねつつ、防衛・宇宙企業として輝き続けているのは立派と感じている。しかし、会社の根幹は変わっていないものの幾多の再編を重ねているのは、強者が弱者を食べて成長を続けている米国の企業ならではと思っている。この様な代表的企業の動向に今回は焦点をあてて見た。

民間航空機の世界で圧倒的なシェアを有し、国際宇宙ステーションでもインテグレータとして、スペースシャトルでも圧倒的な立場を確保来たBoeingは今数々の問題に喘いでいる。航空機では、737MAXで2回の墜落を起こし、長期に渡って飛行停止に追い込まれた。最近では、製造上や品質管理の問題を指摘されており、787の製造工程の確認が行われている。飛行停止や製造上の問題から、民間航空機のシェアはライバルのAirbusに5年連続で負けている。優れた製品を次々に世に送り出して来た優良企業はどこに行ってしまったのだろうか。

宇宙分野でも嘗ての勢いがなく、国際宇宙ステーションでのインテグレータとしての立場やNASAの大型ロケットSLSの実質的なプライムとしての立場は維持しつつもポストISSやArtemis計画では主導的な立場を取ることが出来ていない。

最近では、国際宇宙ステーションへの有人輸送サービスミッションで何とか打上げまで漕ぎ着けたもの推進系の不具合により地球への帰還を何回も延期している。10年前にBoeingとSpace-Xが国際宇宙ステーションへの有人ミッションサービス企業に選定された時は、Space-Xは飛行実績も殆どなく、NASAはBoeingがサービス契約を受けてくれないと計画は頓挫してロシアに永久に有人輸送を依存することになるかもと話していた。それがBoeingは開発に苦戦する中、Space-Xは2020年の初飛行以来10回も飛行している。Boeingは組織的に上手く動いているし、技術力に安定感があり、まだまだ健在と思っていたのにこの状態に驚いている。つい先日NASAから国際宇宙ステーションの軌道離脱システムのメーカとしてSpace-Xが選定されたとの報道があった。Space-Xに過度に依存することは米国の宇宙産業に取って必ずしも望ましいことではないとの意見が多数ある中での決定であった。Boeingには再び輝きを取り戻すべく頑張って欲しいと願っている。

防衛専門メーカとして君臨して来たRaytheonはミサイルやサイバーに続く柱として宇宙を考え、小型衛星メーカBlue Canyonやコンピュータの専門メーカであるSeakerを買収し、SDA(Space Development Agency)での受注を拡大する戦略を持っていた。これらの技術力を持った企業を買収することにより、SDAで確固たる地位を獲得することを目指したが、入札は悉く負けて、得意とする追跡衛星もSDA計画に漸く入り込んだものの結局開発条件を満足できる目途が得られず契約を解除することになった。Raytheonは防衛専門メーカであり、DoDとの関係は重要であることは十分分かった上でのこの決定には驚かざるを得なかった。
更に最近になってRaytheonの小会社であるCollins Aerospaceにて開発していた宇宙服の開発から撤退するとの発表があった。Collins Aerospaceは環境維持システムや宇宙服の開発専門メーカであり、米国の有人飛行と共に歩んで来たのに何故だと思わざるを得なかった。

BoeingもRaytheonの両社とも歴史ある企業であり、米国で従来一般的であったコスト&プラス契約だけでなく、民間航空機やジェットエンジンを社内に持っており、民間の契約にも慣れている筈なのに。米国の調達はサービス調達や固定価格での調達が増える傾向にある。これに伴って企業の優劣も差が付きやすくなっているのは事実である。一方で、巻き返しのチャンスはあると思う。是非2社には捲土重来を期して頑張って欲しいと思っている。


WSBWは、今年からWorld Satellite Business Week → World Space Business Weekにブランド名を進化。
  1. 宇宙ビジネス関連各社(衛星事業者、衛星製造会社、打上げ事業者、金融業者など)のトップクラスの方々が集まるコンファレンス。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月16日-20日 / WESTINホテル・パリ

《昨年開催のWSBW2023の主要指標》

SDSS(宇宙防衛・安全保障サミット)は、フランスの防衛・軍事団体と提携して、第一回サミットを初めて開催。
  1. 防衛、安全保障、宇宙産業におけるグローバル・リーダーが一堂に会する重要なイベント(WSBWとの相乗効果の実現)。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月17日-18日 / Automobile Club de France(フランス自動車クラブ)・パリ

本サミットは、国際的な防衛・軍事団体の協力と支援により開発され、防衛、安全保障、宇宙分野の世界的リーダーが一堂に集まる極めて重要なプラットフォーム。
→ SDSSに参加する防衛関係者にとって、潜在的なパートナー、イノベーター、サービスプロバイダー、投資家との理想的な交流の機会。

《プログラム概要(招待講演者、トピックス)》

Invited speakers

  • Space Commands and military agencies
    (US, France, Spain, Germany, Korea, UK, Japan, Saudi Arabia, Oman, …)
  • Space agencies and research centers
  • International organizations and alliances
    NATO, European Defense Agency (EDA), European Union Satellite Centre (SatCen), European Union Agency for the Space Programme (EUSPA)…

Explore Topics Surrounding

  • Space defense strategies
  • Related activities & partnerships
  • Space surveillance & operations monitoring
  • Space assets operations & protection
  • New capabilities development & challenges for defense actors
  • Innovation & adaptation to military needs
  • Role & relationships with the industrial ecosystem
  • Focus sessions: Connectivity, remote sensing

《最近のWSBWへの防衛関係参加者》

  • French Space Command (CdE)
  • National Space Council (US)
  • NATO Communications and Information Agency
  • Korean Agency for Defense Development (ADD)
  • Directorate General of the Armament (F-DGA)
  • European Defence Agency (EDA)
  • EuropeanUnion Satellite Centre (SatCen)
  • Ministry of Armed Forces(F)United States Air Force (USAF)
  • United States Space Force (USSF)
  • Defense Acquisition Program Administration (DAPA)
  • Ministry of Defence(Spain)
  • Canada Department of National Defence
  • Chilean Air Force, …

《キーハイライト》


2024年6月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■宇宙軍はボーイング、ノースロップグラマンに対ジャム衛星受注先を絞り込む(002)
■スカパーJSATがJSAT-31衛星の製造にタレス・アレニア・スペースを選定(006)
■SESがMEO-LEOデータリレー機能をテスト(016)(図-5)
■宇宙の持続可能性の監視のためのツール(027)
■惑星初のハイパースペクトル衛星が打上げ準備完了(028)(図-8)
■ボーイング社とノースロップ・グラマン社が宇宙軍計画で競い合う(029)
■宇宙安全性/持続可能性への懸念で、軌道上サービスとSSAの意識向上促進(035)
■SIA、世界の商業衛星産業が過去最⾼の成⻑を遂げたと報告(046)
■マクサーの地球観測衛星がISSを撮影、「スターライナー」の姿も(048)(図-12)
■ロッキード・マーティン社が⽶静⽌気象衛星を製造する契約を獲得(050)(図-13)
■GOES-U、新しい太陽センサーを搭載して打上げへ(062)
■ロッキード、ミサイル警戒衛星契約延⻑で9億7750万ドルを確保(064)(図-15)
■衛星の多軌道化の野望に⽋けている部分は⼤局的なビジョン(073)
■宇宙軍は「レジリエントGPS」衛星プログラムの⼊札を求める(074)(図-22)
■中国、8⽉にメガコンステレーション⽤の初の衛星を打上げる(078)
■ロシアの⼈⼯衛星が分解し、地球低軌道にデブリを発⽣(079)(図-24)
■宇宙司令部がスターフィッシュ・スペース社に100万ドルを授与(008)
■スペースデブリの無秩序な再突⼊は現実の増⼤する脅威である(014)
■BlackSkyがNROとの契約を締結(018)
■イリジウムはUSSFのSSCと5年契約を締結(020)
■SDAは衛星メーカーにサプライヤーの多様化を呼びかけ(030)
■RTX がNASA 極地気候ミッションにBlue Canyon 衛星を提供(031)
■Yahsatは、Al Yah 4及び5衛星の製造のためにエアバスと契約(032)
■タレス/スパイア/ESSPが航空交通監視コンステレーションを開発(042)(図-10)
■Starfish Space、インテルサット衛星の寿命を延⻑(075)(図-23)
■AALTO、⾼⾼度疑似衛星に1億ドルを投じる(004)
■マルチオービットブロードバンドの事例(013)
■新ダイレクト・トゥ・セル衛星技術が、10億ドル規模の軍事衛星通信プログラムを混乱させる可能性がある(034)
■AerospacelabがVyomaのデブリ追跡衛星を製造(043)
■スペインIenai Spaceがエレクトロスプレースラスターデモに資⾦獲得(051)
■ExLabsが宇宙ロボティクスを加速するための資⾦を獲得(053)
■SESのASTRA 1PがSpaceXのFalcon 9ロケットで打上げ(055)
■ExoTerraが推進システムの⽣産拡⼤のために800万ドルを調達(058)(図-14)
■Starlab SpaceがPalantir Technologiesとの戦略的パートナーシップを発表(061)
■Beta Project Kuiperブロードバンドサービスが2025年初頭に延期(080)
■Starlink衛星の再突⼊について情報を提供する軍⽤宇宙トラッカー(083)
■WISeKeyがセキュアなIoTコネクティビティの開発を発表し⼩型衛星の打上げへ(085)
【打上】■再設計されたVega Cモーターは地上燃焼試験に成功(001)(図-1)
■アリアン6の初打上げが7⽉9⽇に決定(017)
■アリアン6、ウェットドレスリハーサルを完了(057)
■中国が中仏の天体物理学衛星打上げ、⼈⼝密集地に破⽚が落下(065)(図-16)
■欧州はアリアン6の初打上げで宇宙アクセスリスクを終焉(069)(図-17)
■⽶国宇宙司令部、ロケット貨物構想に期待(070)
■ロケットラボ、NASA超⼩型衛星「PREFIRE」2機⽬打上げ成功(021)
■Blue Origin、SpaceX、ULAがDOD打上げ契約で争う(045)(図-11)
■中国はスペースXのアプローチを検討する必要がありそう(068)
■SpaceXがNROコンステレーション⽤衛星の第2バッチ打上げ(088)
■ユーメサット、気象衛星打上げをアリアン6からファルコン9に変更(089)
■SpaceXのStarshipのフライト4は6⽉6⽇に予定(005)
■Neutron Star Systems RFAはデモミッション契約を締結(007)
■Space Pioneerが再使⽤ロケットに2億700万ドルを調達(022)(図-6)
■スペースX、「スターシップ」第4回⾶⾏試験実施宇宙船軟着⽔成功(026)(図-7)
■Scout Space宇宙望遠鏡がABLロケットで打上げ(033)
■ヴァージン・ギャラクティック、12回⽬の宇宙⾶⾏を完了(036)
■SSCは、国家安全保障宇宙打上げフェーズ3レーン1の3契約発注(047)
■Rocket Labが50th Electronで初のKinéis衛星を打上げ(063)
【その他】■着陸成功︕ 「嫦娥6号」が⽉の裏側でのサンプル採取を開始へ(009)
■ロシア、ISSへの補給船「プログレスMS-27」打上げ成功(010)
■嫦娥6号:⽉のサンプルを採取し、⽉周回軌道に打上げ(011)(図-3)
■NASAハビタブル・ワールド天⽂台計画の議会⽂書を変更(012)
■スターライナーが有⼈試験⾶⾏で打上げ(015)(図-4)
■嫦娥6号宇宙船が地球への帰還を前に⽉周回宇宙船にドッキング(023)
■ボーイング新型宇宙船「スターライナー」クルーを乗せて初めてISSに到着(025)
■中国が⽉⾯を視野に⼊れた新たな宇宙⾶⾏⼠を選抜(037)(図-9)
■スターライナーで5回⽬のヘリウム漏れを検出(038)
■ESAと中国の⽉⾯協⼒は嫦娥6号で終わる可能性(039)
■NASAとボーイング社、宇宙ステーションで乗組員とスターライナーのテスト継続(041)
■中国の秘密スペースプレーンが⼩型宇宙船との近接運⽤を実施(044)
■アルテミス時代の⽉の氷でまだわかっていないこと(049)
■⽉の裏側に着陸した⽉探査機「嫦娥6号」を⽶⽉周回衛星「LRO」が撮影(056)
■嫦娥6号、史上初の⽉の裏側サンプルを携えて地球へ(067)
■NASAが⽕星サンプルリターンミッションの⼿法研究で7社の企業を選定(071)
■嫦娥6号、初めて⽉の裏側サンプルを地球に届ける(072)(図-18)
■コリンズ・エアロスペース、NASAの宇宙服契約から撤退(077)
■MDA Spaceが⽉⾯ゲートウェイロボットアーム開発次フェーズ契約を受注(082)
■中国は、⽉の裏側サンプル1,935g収集後、深宇宙ミッションに向けて準備開始(084)
■スターライナーはISSに留まり、さらなるスラスター試験を実施(087)
■VAST社が探査会社と宇宙ステーション貨物サービスの署名を(040)
■NASAがSpaceXと宇宙ステーション軌道離脱機の契約を締結(076)
■ブルーオリジンは、ニューシェパードパラシュートの問題を調査(003)(図-2)
■Redwireが微⼩重⼒ペイロード開発と宇宙運⽤施設に着⼯(024)
■Starlab Space、商業宇宙ステーションの取り組みの戦略的パートナーとしてPalantirを追加(059)
■受賞者は、太陽⽅向から⾶来する⼩惑星検出を要望(090)
【国内】■JAXA、H3#3号機の打上げを7⽉1⽇に再設定だいち4号搭載(086)(図-21)■Ispace-U.S.、スウェーデン宇宙公社の⽉⾯地上局ネットワークをM3⽉ミッションに活⽤(081)■アストロスケールの株価が東京株式市場デビューで急騰(019)
■SynspectiveがRocket Lab Electronの打上げ10機受注(052)
■アストロスケールの実証衛星が15年前のロケットの⼀部を50m⼿前から定点観測画像&動画公開(054)(図-19)
■Ursa Space が⽇本のNEC と提携し、SAR データのインサイトを提供(060)
■Synspective、シリーズCラウンドで4,400万ドルを調達(066)(図-20)