海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2024年04月30日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:岡屋 俊一
発行責任者:村上 淳

Space Symposium 2024 について(村上)

Space Symposium がColorado SpringsのBroadmoor Hotelで4月8-11日の間、開催された。
今年が39年目を迎え、過去最高の15,000人の参加があった。 Colorado Springsで開催される様になったのは、ピータソン空軍基地があり、米空軍の活動を理解して貰うことを目的として始まった。最初の何年かは、米空軍関係者と地元企業が参加する地場産業振興の為のイベントであったのに今や米国政府関係者や大企業から新興企業、海外からも多数の参加を得て開催される様になって来ている。昨年は会場に入ることが出来ず、入場を断られ、会場の外でイベントの様子をビデオ配信で見ることも多かった。今年も新宿の雑踏を歩くごとく正に芋の子を洗う状況であった。

1.全般:

米国予算が昨年度まではインフレや産業振興の観点から10%程度伸びて来ており、どう見てもバブルな感じとなっていたが、ここに来て、予算の伸びが抑えられ、プロジェクトの選定を行う必要が出て来ていることもあり、景気の良い発言をする会社と正直言って苦しいと話す企業に色分けされて来ていた。それでも、面談した7割は事業の拡大を信じていると話していた。

米軍の予算は、伸びは抑えられたと言っても巨大で新規案件のポジションを取って来ているLockheed MartinやNorthrop Grummanは、政府の方針変更に柔軟に対応している印象を持った。
一方で、Raytheonは宇宙分野で戦略の見直しを余儀なくされていることが分かった。3年前に小型衛星メーカ Blue CanyonとSeakerを買収した時は、宇宙は真っ赤に染まると思っていたが現状は違った感じとなっている。

2.米国の動向:

米軍やNASAはこの時期を狙って毎年新規の方針を出して来ている。今年は、予想外に大きな方針の発表は無く、逆にびっくりさせられた。従来出している方針を着実に実施すると言うことかも知れない。
米軍は、商業利用の方針を更に取り入れて行きたいと打出していた。最早米軍のシステムだけでは、対中国やロシアに対抗することは難しく、ウクライナでのStarlinkの使用に見られる様に、民間企業と連携して非常事態時に対応出来る状況を作りたいとの意図と、全てを米軍がシステムを持つことは効率化の観点でも望ましくないとの背景がある。民間の宇宙活動が活発になった状況においては、AIや画像処理の様にむしろ民間の方が、技術的に優れており、これを取入れたいという意図もある様である。

Space Symposium会場

宇宙インフラについては、従来重視して来た静止衛星から、静止軌道、中軌道、低軌道に配備し直すことにより、ロバスト性を向上させたい方針を出していた。

これに加えて、従来大型静止衛星を米軍は採用して来ていたが、機能を分散し、小型静止衛星を採用する動きを出していた。これは、複数の理由があり、頻繁に軌道上で不審衛星に追い掛けられる状況において、機能を分散させて置かないとロバスト性を確保出来ないとの判断が大きいとのことであった。目敏いLockheed Martinや新興のAstranisは早くも小型静止衛星の開発やラインの増強に乗り出していた。この辺りの動きは機敏だなと感心させられてしまう。

NASAは軌道上のデブリ対策を今後取り組んで行くとのメッセージを出していた。副長官が述べていた様にデブリ問題はNASAが所轄する業務では無いが、最早軌道上の状況を考えると無視出来ない課題となっていると述べていた。2年前はArtemis計画の推進について述べて、昨年は軌道上サービス(COSMIC)について米軍や産業界、アカデミアと連携することを発表した。個人的には今年は再度Artemisを取り上げることで浸透を図る方が良かったのではと感じた。大統領選挙の年でありその結果によっては、NASAの方針は変えざるを得ないかも知れない中で、敢えて環境保護を打出したのかも知れない。

3.企業の動向:

米国の大企業は最近新興企業の買収や投資を活発に行っている。Lockheed MartinはTerran Orbitの買収を計画していることを発表し、Raytheonも小型衛星メーカを買収した。Lockheed Martinはベンチャーファンドを自社で用意し、新興企業に積極的に投資している。日本とは仕事のやり方も企業風土も違うと言ってしまえばそれまでであるが欧州のAirbusも積極的な状況にある。

日本の場合は商社がその役割をなっていると言う観点はあるもの、製造業として生き残る為に技術のある企業を買って企業としての競争力を上げて行くと言うやり方をメーカも取らないと世界の中で生きて行くのは難しいかなと感じた。

新興小型静止衛星メーカAstranisとのミーティングでは、年10機の生産が可能な体制を夏までには整備すると話していた。半分が政府で半分が商業とのことであった。現在の部品確保が難しい状況を克服する為、7割を自社で製造するとのことであった。地道でありながら、やることが早いなと驚かされた。

4.その他:

日本から多くの人が参加しJAXAブースも何時も人が溢れていた。特に、マス酒を提供したJapan Hourでは、長蛇の列が出来ていた。外国の方々はJapan Hourを非常に楽しみにしており、Space Symposiumで日本を知って貰う非常に良い機会となって来ていると感じた。

展示会場風景


WSBWは、今年からWorld Satellite Business Week → World Space Business Weekにブランド名を進化。
  1. 宇宙ビジネス関連各社(衛星事業者、衛星製造会社、打上げ事業者、金融業者など)のトップクラスの方々が集まるコンファレンス。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月16日-20日 / WESTINホテル・パリ

《昨年開催のWSBW2023の主要指標》

SDSS(宇宙防衛・安全保障サミット)は、フランスの防衛・軍事団体と提携して、第一回サミットを初めて開催。
  1. 防衛、安全保障、宇宙産業におけるグローバル・リーダーが一堂に会する重要なイベント(WSBWとの相乗効果の実現)。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月17日-18日 / Automobile Club de France(フランス自動車クラブ)・パリ

本サミットは、国際的な防衛・軍事団体の協力と支援により開発され、防衛、安全保障、宇宙分野の世界的リーダーが一堂に集まる極めて重要なプラットフォーム。
→ SDSSに参加する防衛関係者にとって、潜在的なパートナー、イノベーター、サービスプロバイダー、投資家との理想的な交流の機会。

《プログラム概要(招待講演者、トピックス)》

Invited speakers

  • Space Commands and military agencies
    (US, France, Spain, Germany, Korea, UK, Japan, Saudi Arabia, Oman, …)
  • Space agencies and research centers
  • International organizations and alliances
    NATO, European Defense Agency (EDA), European Union Satellite Centre (SatCen), European Union Agency for the Space Programme (EUSPA)…

Explore Topics Surrounding

  • Space defense strategies
  • Related activities & partnerships
  • Space surveillance & operations monitoring
  • Space assets operations & protection
  • New capabilities development & challenges for defense actors
  • Innovation & adaptation to military needs
  • Role & relationships with the industrial ecosystem
  • Focus sessions: Connectivity, remote sensing

《最近のWSBWへの防衛関係参加者》

  • French Space Command (CdE)
  • National Space Council (US)
  • NATO Communications and Information Agency
  • Korean Agency for Defense Development (ADD)
  • Directorate General of the Armament (F-DGA)
  • European Defence Agency (EDA)
  • EuropeanUnion Satellite Centre (SatCen)
  • Ministry of Armed Forces(F)United States Air Force (USAF)
  • United States Space Force (USSF)
  • Defense Acquisition Program Administration (DAPA)
  • Ministry of Defence(Spain)
  • Canada Department of National Defence
  • Chilean Air Force, …

《キーハイライト》


2024年4月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■2025年に軍事衛星の軌道上サービスミッションを計画(002)(図-1)
■中国がYaogan偵察衛星の新シリーズ第1弾を打ち上げる(010)
■Sierra SpaceがVelocity、Horizon、Titan衛星バスを発表(027)
■NASA、新たな宇宙持続可能性戦略を発表(029)
■中国が商⽤SuperView-3リモートセンシング衛星を打ち上げ(043)
■Maxar Intelligence社は画像ビジネスの⼤幅な進化を計画(046)
■宇宙軍は商⽤技術で衛星開発の加速を計る(047)
■衛星画像会社のIceyeが最新の資⾦調達ラウンドで9,300万ドルを調達(052)
■EarthCARE衛星が地球上空を探査(053)
■ICEYEは、グローバルなSARミッションを拡⼤で成⻑資⾦調達ラウンドを調達(063)
■宇宙軍を産業界へ:新たな商業宇宙サービスの価値を証明(069)
■中国が軍再編により宇宙作戦を変⾰(070)
■ClearSpace-1ミッションの主な変更が承認(074)(図-13)
■BAEシステムズが製造したCloudSat衛星が約20年のミッション完了(075)
■SSCは、FORGEでOBACの運⽤受け⼊れを達成(087)(図-15)
■国家安全保障における宇宙政策の役割が主役に進化(024)
■宇宙商務室は、SSAにおける国際協⼒を呼びかける(026)
■⽶空軍がクイック・スタート・イニシアチブの宇宙プログラム選択(051)
■Space ISACがLEO衛星運⽤者グループを設⽴(057)
■BlueHalo、衛星脆弱性の調査等で2,400万ドルの空軍と契約(064)
■チューリヒ⼯科⼤、地球の⽔循環表⽰で新たな仕組み構築(067)
■Parsons社がTraCSSのシステムインテグレーターに(001)
■Beyond Gravityの新SSAシステムは軌道上衛星の監視を可能(007)
■スペースX、スターリンク衛星「V2 Mini」の打ち上げ成功(009)
■Scout Spaceが軍の顧客に宇宙領域認識センサーを提供(014)
■Kratos社が⽶陸軍の衛星インターネット技術を実証(019)(図-3)
■⼩型衛星は軍事気象データの⼤きな⽋損部を埋めることを⽬的(028)
■Flight Works、AFRL向モジュール式燃料補給式推進系を開発(030)(図-7)
■Astranis社GEOブロードバンド衛星を⼤型化(033)
■ケプラー社はTESAT/Spacecom とAirbus D&Sと提携し、LEO光通信ネットワークを構築(034)
■LeoLabs社は衛星運⽤の異常修復に焦点を絞る(035)
■ATLAS Space Operations社、ハイブリッド宇宙アーキテクチャの運⽤能⼒を実証(040)
■コムテック社、Eutelsat OneWebと提携し、南極⼤陸にLEOコネクティビティサービスを提供(048)
■衛星からスマートフォンへのサービスが次ステップへ(050)
■Verus® Researchの100万ドルの契約は、空軍研究所宇宙船の異常を監視(059)
■KP Labs社、Intuition-1衛星搭載のAI処理によるハイパースペクトル画像を公開(066)
■Agile Spaceが⽶国宇宙軍のミッションの推進契約を締結(084)
■SpaceX、Starshipの宇宙空間内燃料補給技術を進展(086)
■Kuva SpaceがESAのハイパースペクトル契約を獲得(090)
【打上】■中国、「雲海3号02星」の打ち上げに成功(005)
■ULA、デルタIVヘビーの⽶国家偵察局の衛星を打上げ成功(031)
■ロシア、ボストチヌイ宇宙基地からの「アンガラ」ロケット初打上げ成功(037)(図-8)
■ULAがデルタIVヘビーの最終打ち上げに成功デルタシリーズ運⽤に幕(072)(図-12)
■アリアン6がOOV-Cubeを⾶ばす(079)
■NASAは9⽉に⽕星⼩型衛星ミッションを最初のニューグレンで打上げ予定(080)
■SpaceXがEutelsat 36Dを打上げ、7回⽬の再利⽤記念⽇にブースター着陸成功(003)
■Rocket Labは、KAISTとNASA衛星を別々軌道に打上げへ(012)
■ブルーオリジン、有⼈運航のニューシェパード便を再開(017)
■SpaceXの週末の3シリーズ打ち上げの第1回⽬の打ち上げ(020)
■Musk⽒は、Starship打上率と打上性能を向上計画概要説明(021)(図-4)
■Rocket LabとTrue Anomalyが宇宙軍の「戦術的即応性」ミッションに選ばれる(032)
■SpaceXが国防総省次世代運⽤環境インテリジェンス衛星打上げ(036)
■Relativity Space社がアディティブ・マニュファクチャリング研究で870万ドルの⽶空軍契約獲得(041)(図-9)
■SSCがTactically Responsive Space(TacRS)契約を締結(044)
■アストロボティック者は、再利⽤可能なXogdorサブオービタルロケットの軍事顧客へアプローチ(055)
■Rocket Lab がNASA のACS3 とNEONSAT-1衛星をElectron で打上げ(058)
■スペースX、スターリンク衛星「V2 Mini」の打ち上げに成功(061)
■Electronが韓国の画像衛星とNASAのソーラーセイルを打上げ(077)
■SpaceXのGalileo L12ミッションの最新情報は、今週末のフロリダでの2回の打ち上げのうちの1回⽬です(085)
■SpaceXがMaxarのWorldViewミッションを再び視界に戻します(089)
【その他】■宇宙⾶⾏⽤の核融合エンジンを開発するカリフォルニア州のスタートアップ企業ヘリシティ・スペースにロッキード・マーティン・ベンチャーズが出資(006)(図-2)
■ホワイトハウス、NASAに⽉標準時間開発を指⽰(011)
■ボーイング「スターライナー」有⼈⾶⾏試験は2024年5⽉6⽇以降に実施(013)
■NASA幹部がSpace Symposium で宇宙の持続可能性を強調(022)
■タレス・アレニア・スペースが「シグナス」補給船の新型モジュールを製造中(054)
■NASAは⽕星サンプルリターンプログラムのための新しいオプションを探索(056)(図-10)
■宇宙シンポジウムを振り返って(060)
■カナダ政府、MDA Space社のISSロボット契約を2030年まで延⻑(062)
■NASAは、コストが2倍になったDragonflyミッションを承認(065)
■MDA Space社が宇宙ロボットの新しい製品SKYMAKER を発表(071)(図-11)
■中国は2030年までの有⼈⽉⾯着陸に向けて順調進⾏中(077)(図-14)
■NASAのボイジャー1号が地球へのアップデート送信を再開(078)
■新型宇宙船「スターライナー」準備完了審査クリア(082)
■中国、⽉裏側サンプルリターンミッションの打ち上げ準備完了(088)
■Lunar Dawn TeamがNASAのLunar Terrain Vehicle受注(015)
■第39回宇宙シンポジウムでのスタートレック対スターウォーズ討論(039)
■中国Queqiao-2中継衛星が⽉裏側サンプルミッションをサポート(042)
■Varda Space Industries社が9,000万ドルを調達(023)(図-5)
■Max Space社、インフレータブル宇宙ステーションモジュールの計画を発表(025)(図-6)
■Blue Originを含むスタートアップ企業がアポフィス⼩惑星ミッションを提案(068)
■商業宇宙ステーションモジュール開発会社Graviticsが宇宙軍との契約を獲得(081)
【国内】■三菱電機、衛星不具合地上から発⾒観測設備の知⾒蓄積(008)
■⾼砂熱学⼯業、⽉で⽔素・酸素⽣成⽔電解装置開発⻑期滞在へ実証(018)
■⽇本⼈宇宙⾶⾏⼠に2回の⽉⾯着陸機会が提供、「アルテミス計画」与圧ローバー巡り⽇⽶間で署名(045)(図-18)
■JAXA⽉探査機「SLIM」3回⽬の夜を越すことに成功着陸成功から3か⽉(076)(図-19)
■JAXA、だいち4号搭載のH3ロケット3号機早ければ2024年6⽉30⽇に打上げ(083)
■三菱商事がStarlab Spaceに出資(016)(図-16)■インターステラテクノロジーズ、JAXAと優先打上げ事業者として契約を締結(004)
■アストロスケール社のADRAS-Jミッションが次フェーズに移⾏(038)(図-17)
■スペースX、QPS研究所の衛星などを搭載したライドシェアミッションに成功(049)