海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース
2023年6月30日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク
■ 論説-1:地球観測衛星オペレータの経営状況 (葛岡)
■ 論説-2:Asia Satellite Business Week参加報告 (大石)
■ 論説-3:輸送系の状況について (村上)
■ 論説-4:宇宙基本計画の改訂(後藤)
論説-1:地球観測衛星オペレータの経営状況 (葛岡)
米国下院軍事委員会(the House Armed Services Committee: HASC)は6月12日、NGAがもっと商用地球観測(EO)データを使うことを指示する声明を出し、NGAに対して商用データの利用について詳細計画を出すよう指示した。
商用EO衛星オペレータは毎日観測に対応する新しいコンステレーションを整備しているものの、オペレータが期待するほどNGA/NROはデータを購入していない。確かにロシアのウクライナへの侵攻の分析については商用EOデータの利用が顕著であるが、政府のその他の分野では商用EOデータの利用がまだ十分ではないと元NGA職員もコメントしている。商用EOデータの調達と利用が、政府において遅れているともコメントしている(Space News 6月16日)。
たしかに最近SARやHyperspectralデータ調達をNRO/NGAが発表してはいるものの、その調達額はまだ小さく研究開発・評価検証のレベルにとどまっている。
実際NGAは過去にはEnhanced ViewというプログラムでMAXAR社に対して10年間で$7.3 billion の購入を約束したこともあった(当初)。
これに対して昨年NROはBlackSky、Maxar、Planetの3社と、基本5年、最長10年間まで延長可能な「Electro-Optical Commercial Layer (EOCL)」契約を締結したが、基本部分は$1.5 billion、最大10年でも$3.24 billion規模とされている。MAXAR1社に対するEnhanced Viewと比べて3社で半分ほどの額を分け合う形となっている。
実際Planetが公開している財務諸表を見ると、売上が2021年に$113,168Kが2022年に$131,209Kと増えているにもかかわらず純損失は2021年(127,103K)と2022年(137,124K)と悪化している。
また2022年の1~3月期の売上が$31,957Kに対して2023年の1~3月期でも$40,127Kと対して増加はわずかである。
2022年の2月にロシアのウクライナ侵攻が開始されたことを考えると、2022以降年の売上・利益はもっと拡大しても不思議ではない。NGA/NROのデータ調達計画は公表されたものの、民間企業の財務諸表に反映されるまでには至っていない。
いずれにせよPlanetは株式公開をしたもののまだまだ毎年の財務状況は赤字経営が続いており、投資を食いつぶしている状況である。
このようにスタートアップとしてEO衛星オペレータの先陣を切っていたPlanetでもこのように財務的に厳しい状況が続いている。
この状況のままだとビジネスの継続性も怪しくなるため、HASCとしてもNGAに対してもっと商用EO衛星画像を使えという方向性を出したものと思われる。
確かに商用EO衛星画像が役立つことは確かではあるが、それを継続的に利用するための民間企業をどのように支援するのか、誰がカネを出すのか、米国であってもまだまだ定まっていない。
論説-2:Asia Satellite Business Week参加報告 (大石)
別途配布のAsia Satellite Business Week参加報告を参照願います。
論説-3:輸送系の状況について (村上)
世界の打上げ市場は拡大傾向にあるとは言え、数兆円規模で宇宙全体の売上に占める割合は数%で大きいとは言えない。打上げ市場のリーダーとなったSpace-Xでさえ、打上げだけでは数千億円規模の売上で決して小さくはないが大きくはない。
打ちたい時に運びたいところに衛星を運ぶ機能は宇宙開発の基盤であり、これが安定的に出来て初めて他の事業が展開出来ると言う観点では重要であるのは誰もが認識いる。
米国では、安全保障衛星の打上げを確実に行う観点から、米軍がNational Security Space Launch契約を結んでおり、ULAとSpace-Xと契約を結んでいる。6月に発表されたフェーズ2の契約では12回の打上げを6回づつに分けることになった。Space-Xは、SDAの打上げを5回、機密ミッション衛星の打上げが1回となっている。ULAはSDAの打上げが2回で機密ミッションとGPS衛星の打上げが4回となっている。
従来、Space-Xの契約とULAの契約の割合いは40%対60%であったのに比べて、50%対50%になりつつあるのは改善ではあるものの依然として重要なミッションはULAが担っている。
Space-XがFalcon9、Falcon Heavyを安定的に打上げているのに対してULAはバルカンロケットの開発に手間取っている。しかし、契約的な面での変更は遅れているのが実情である。
NASA契約においてもStarshipでの月面有人着陸機の契約は獲得したものの、1回の打上げ費用が$2BのSLSが月への有人ミッションのベースとなっている。
米国の打上げが安定的に行えている理由は、1社に絞り込むことは行わず、常に競争を行う環境を作ったことが功を奏していると考える。
Space-Xは契約を増やす為に成功を重ね費用の増加を極力抑えている。
ULAは安定的な市場の維持を目指して確実な打上げ手段の獲得と費用の削減に取り組んでいる。SLSは高価格であることから、多くの批判に晒されつつ、安定的な打上げと雇用の確保を意識して取り組んでいる。
打上げは市場規模が小さく、価格がどんどん下がって行く環境下でどの様に維持すべきか、欧州でも我が国でも様々な施策が実施されている。効率的に手段を維持する理念は共通でこれを如何に実現するか問われている。
正直、欧州と我が国は共通の課題を抱えてどちらも上手く行っているとは言えない状況にある。短期的な観点で見ると直ぐに解決できる状況にはなくなりつつある。商業市場で余りにSpace-Xが強くなり過ぎ差がついてしまったことが大きい。
10年位のスパンで計画を立てて挽回策を立てて行かないと税金でシステムを維持することは変わらず、動きの速い米国との差は益々開き悪化に一途を辿って行くことになると考える。予算を効率的に使い、技術獲得をしつつ、システムの維持向上を図って行く為の施策の実行に期待している。当たり前のことであるが。
論説-4:宇宙基本計画の改訂(後藤)
2023年6月13日に宇宙基本計画の改定が閣議決定された。2009年の制定以降4回目の改定となる。ほぼ同時期の2008年に制定された海洋基本計画は2023年に3回目の改定が行われたが、宇宙基本計画はより速いペースで改定されており、宇宙を取り巻く環境が大きく変化していることに対応している。
宇宙基本計画は内閣府HPにて公開されているので詳細についてはそちらを参照頂くとして、ここでは宇宙基本計画に掲げられた宇宙政策の目標(方向性、課題)について概観してみたい。少々長くなるが、今までの基本計画に記載された宇宙政策の目標を順に以下に列挙する。
2009年:①安全・安心で豊かな社会の実現、②安全保障の強化、③宇宙外交の推進、④先端的な研究開発による活力ある未来の創造、⑤21世紀の戦略的産業の育成、⑥環境への配慮
2013年:①安全保障・防災、②産業振興、③宇宙科学等のフロンティア
2016年:①宇宙安全保障の確保、②民生分野における宇宙利用の推進、③産業・科学技術基盤の維持・強化
2020年:(1)多様な国益への貢献;①宇宙安全保障の確保、②災害対策・国土強靭化や地球規模課題の解決への貢献、③宇宙科学・探査による新たな知の創造、④宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現、(2)産業・科学技術基盤を始めとする我が国の宇宙活動を支える総合的基盤の強化
2023年:①宇宙安全保障の確保、 ②国⼟強靱化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現、③宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造、④宇宙活動を⽀える総合的基盤の強化
上記を見ると、我が国の宇宙政策は、①宇宙安全保障、②国土強靭化・防災等の安全・安心な社会の実現、③宇宙科学・探査による新たな知の創造、④これらの宇宙開発利用を支える宇宙産業基盤の強化、を主要な柱として進められてきたことがわかる。宇宙安全保障は目標の第一に挙げられているが、これはもともと宇宙基本法が安全保障における宇宙利用を柱の一つとして掲げていることや、我が国を取り巻く環境が年々厳しくなりつつあることを反映している。
特に今回の改定は、昨年末の安全保障3文書の改定とそれに続く宇宙安全保障構想の制定を踏まえたものであり、防衛宇宙予算の増加(今後5年間で1兆円)も表明されるなど、宇宙基本法制定から15年を経て宇宙安全保障等がようやく本格的に進みつつあることが実感される。
安全保障に続く目標は、防災・国土強靭化や地球規模課題の解決等、安全・安心な生活やイノベーションの実現に関わるものであり、気象衛星ひまわりの高度化や準天頂衛星システムによるG空間情報の活用、さらにGOSAT等地球観測衛星のデータ活用等で着実に成果を上げている。また、例えば国土強靭化基本計画(平成30年制定で若干古いが)においては、準天頂衛星やALOSシリーズ等を利用した情報収集や通信手段の整備などについて記載されており、宇宙基本計画と連携させつつ早期実現を図っていくことが必要である。
ただ、JAXA衛星はあくまで実験開発衛星の位置づけとなるので、社会インフラとして採用するためには担当省庁を決め、データの継続性等を保証する必要があるのではないだろうか。また、衛星通信インフラの整備や商用小型観測衛星コンステレーション(EO/SAR等)からのデータ調達についても、長期にわたる購入を保証するなどしてコンステレーションの早期構築を促進することが重要である。
宇宙科学・探査に関しては、2020年代後半に日本人宇宙飛行士による月面着陸実現を含むARTEMIS計画が目玉事業となろうが、MMXやSLIM、さらにはやぶさ2に続く深宇宙探査技術実証機DESTINY+等の我が国の独自プログラムも着実に進めるとともに、月面産業構築に向けて機運が高まりつつある民間独自の動きとの連携が重要であろう。
宇宙産業基盤の強化については、「安全保障利用において先端技術を開発し、その技術を活用して世界市場でシェアを獲得する」というのが旧来のパターンであったが、近年、特に米国では「政府が必要とする能力を示し、民間が革新的な技術をもとに開発を進めてサービスを提供する」というパターンに移行しつつある。わが国においても後者の新たなパターンに対応して迅速かつ効率的に世界に通用する能力を開発することは必須であるが、ミッションに応じて前者の政府主導のパターンも併用して宇宙産業全体の強化を図ることが必要と考える。
宇宙産業市場は現在40兆円規模だが、2040年代には100-200兆円規模に成長するといわれている。わが国としては、安全保障や安心・安全な生活を実現するために必要な宇宙利用を(すべて自前とは言わないが‥)実現するための宇宙産業を保持するとともに、世界市場において適切なシェアを確保することを目指さねばならないが、世界の動きがあまりに早く、現在トップグループにいる企業も数年後には欧米企業に置いて行かれかねない状況である。
そのため、民間の投資を呼び込むための「呼び水」としての役割も含め、目標①~③に関して政府一丸となった施策の迅速な実行が必要であるが、その多くはすでに宇宙基本計画に記載されている。あとは、それを着実に、かつ早急に実現していくことにかかっている。
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