海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース
2023年3月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク
■ 論説-1:3月の海外出張-AVALON2023とSatellite2023(葛岡)
■ 論説-2:(都合により休載: 大石)
■ 論説-3:企業戦略について(村上)
■ 論説-4:Falcon-9がリフトオフ3秒前にPWSA衛星打上げを中断(後藤)
論説-1:3月の海外出張-AVALON2023とSatellite2023(葛岡)
宇宙ビジネスに係るものの常として、弊社も毎年3月は各種納期が重なり納入物の作成・納入に忙しい。その多忙な3月、今年は2回も海外出張して日本を離れてしまった。納入準備の際に不在だったことでお客様、および社内のメンバーに迷惑をおかけしたことをまずお詫びしたい。
それでも2件、海外出張は大きな成果があった。両方の出張報告は4月になってから作成して皆様に共有するが、マンスリーニュースではそのサマリを書いてみよう。
AVALON 2023はオーストラリアのメルボルン近郊、Avalonという地方空港で2月28日(火)から3月4日(木)に開催された。この期間はIndustry Dayと称するが、その後金・土に一般公開されるAVALON Air Showとしての方が認知度が高いかもしれない。この展示会は基本的に航空機を中心とする防衛産業の展示会であり、その中に徐々に宇宙関連の展示・講演が増えてきたという位置づけである。2年に一度の開催だが、2021年はCOVID-19のため中止となっていたため、4年ぶりの開催であり、前回に比べ24%増の48,516人が参加したとのこと。
戦闘機などの実物が多数展示されているおり、戦闘機が実際にタッチダウン・急上昇のデモの際には轟音のなか、なかなか打合せもままならなかったが、普段知らないオーストラリアの宇宙関連企業といくつかミーティングで来た。オーストラリアには衛星・ロケットシステムインテグレータはおらず、欧米インテグレータが参入している。しかしオーストラリア発の企業がサブシステム・コンポーネントを開発しているのが目を引いた。彼ら米国を主要顧客ととらえており、すでに宇宙防衛を含む米国のプロジェクトに参加して実績を積んでおり、日本の宇宙企業よりグローバル市場を見据えている。またスタートアップに対しても、オーストラリア宇宙庁を始めとする支援体制が厚い。いくつか面白い宇宙スタートアップ企業があったので、出張報告で紹介しよう。
Satellite 2023は宇宙関係者だと誰もが知っている、世界の宇宙産業での大型コンファレンス・展示会の一つである。今年は3月13日(月)から16日(木)、例年通り米国ワシントンDCのWalter E. Washington Convention Centerで開催された。リモート参加もあったようだが、現地参加人数だけで約14,000人とのこと。今年は日本からの出席者も多かったが(100人近く?)、それ以上に韓国・台湾からの参加が目立った。
元来Satelliteは商用衛星通信を中心とした展示会であったが、最近は地球観測も含み、また国・軍と民との関連性についての講演も増えてきた。昨年から商用衛星通信プロバイダーが主張しているMulti Orbitを用いたネットワーク構築が議論のひとつであった。GEOとLEO/MEOをどう乗り入れるか、特徴を活かして使うかということだが、実現方法はまだこれからか。複数の衛星通信ネットワークを統合するオーケストレーション機能が必要であろうが、その詳細についての説明はまだない。
またStarlinkやOneWebなど既にLEOコンステレーションサービスを開始している企業の発表・展示はほとんどなかった。一方Amazon Kuiperは、新しい衛星通信端末を発表して喝さいを浴びていた。AmazonではConsumer Electronicsの経験者が衛星端末を開発し、Consumer Electronicsに比べて衛星通信端末の開発は容易だと言い切り、ASICの開発がキーとなっているとのこと。詳しくは出張報告に示す。
論説-3:企業戦略について(村上)
米国の防衛・宇宙の老舗企業の最近に動向について整理して見た。
この企業は3月 Crescent Space Servicesと言う子会社を立ち上げて、月面での通信・測位サービスを展開するとの発表があった。NASAは月面での通信については、サービス調達とすることを以前から述べており、これに呼応する形でのサービス提供の発表となった。
ここで面白いと思ったのが、この会社はNASA Mission(Traiblazer衛星)向けの小型衛星の技術を用いて衛星開発を行うとのことである。NASA小型衛星ミッションは月面での水探査を行うのを目的として開発が進んでいたが、折角ミッションを行うのだから、通信の機能を持たせて試験を実施することになった。
正直どこまで将来のことを考えて通信機能を付加したり、効率の余り良くない小型衛星事業に参入したかは不明ではあるが、NASAのMissionで蓄積した技術を活用して通信・測位事業を行うことにしたとのことである。
最近、この会社はTerran Orbitalと言う小型衛星の会社に$100M投資して、米軍向けの小型衛星コンステレーション計画にも乗り出している。
元々大企業で大型衛星や米軍向けの高機能の衛星を得意としており、とても小型衛星には、向いていないと思っていたが企業を買収したり、技術導入を行うことにより、小型衛星や新規市場である月面事業に乗り出して来ている。
戦略は極めてシンプルで国の事業をより効率的に高度な技術で持ってサービスを提供出来る様にしてそれを事業にして行くとのことである。企業として足りない部分は外部の能力を入手して拡大、対応して行くとのことである。
企業の戦略は後追いで見て行くとなる程と感心させられたり、何でこんなこと実施したのかと疑問に感じることも多々ある。この会社の動向は上手く行ったところばかりを見ているので感心させられることも多いのだが、余り上手く行かないこともあるのだろう。
ただ、企業として市場の動きに合わせて変わって行く必要があるとの意識と市場を作り出す努力が必要との動きには感心させられる。
この会社は現在、月面ローバーの開発提案も行っている。将来的には、月面ローバーの通信・位置情報を子会社で計画している小型衛星とリンクさせて自動運転する計画だそうだ。
この自動運転技術を使って、火星ミッションでのローバーにも繋げて行くとのことである。
地球低軌道コンステレーションの運用にも自律化と言う観点では役に立つとのことである。
無駄が少ないなあと感心することが多い。
日本の企業も政府からの仕事を待っているだけではなく、技術を磨く努力と世界の動向に合わせて会社を変えて行くことは必要では感じている。
論説-4:Falcon-9がリフトオフ3秒前にPWSA衛星打上げを中断(後藤)
2023年3月30日に予定されていたSpaceX社Falcon9による衛星打上げが、リフトオフ3秒前に中断された。(ちなみに、SPACEFLIGHT NOWのホームページでは、”Failed”ではなく”Aborted”という言葉を使っていました‥)
今回の打上げは、米国宇宙軍のSDA(Space Development Agency)が開発したPWSA Tranche 0 衛星28機のうちの10機を打ち上げる予定である。PWSAは元は”National Defense Space Architecture (NDSA)”と呼ばれていたが、「LEOコンステレーションの開発、実戦投入、運用を通じて、地上ミッションを支援するために必要な宇宙ベースの能力を統合軍兵士に提供する」という目的に即した”Proliferated Warfighter Space Architecture (PWSA)”という名称に変更された。PWSAはIRセンサを搭載してミサイルの追尾データを収集するTracking Layer、ミサイル追尾データなどを含む大量の情報を光衛星間通信によりリアルタイムで通信するTransport Layer、ミサイル発射前(left-of-launch)のターゲット追跡情報等を収集するCustody Layer等7つのレイヤから構成される。
今回の打上げは、Tranche0と呼ばれるTransport Layer20機、Tracking Layer8機、計28機のうち最初の10機(Transport Layer8機とTracking Layer2機)であり、残りの18機も2023年中の打上げが予定されている。なお、Transport LayerはさらにA-classとB-classに細分されている。また、Transport Layer A/B-classとTracking Layerという3種類の衛星はそれぞれ半数ずつ2社に発注されている。(Transport Layer A/B-classはYork Space SystemとLockheed Martin/ Tyvak、Tracking LayerはSpaceX/LeidosとL3-Harrisと契約) Tranche0に続くTranche1ではTracking Layerの衛星28機が開発中であるが、この28機もNorthrop GrummanとL3-Harrisの2社に発注されている。
このようにそれぞれの衛星開発を2社に分けて発注することはあまり例がないと思われるが、開発中の問題発生によるスケジュール遅延のリスクを低減することが目的と考えられる。また、Custody Layerでは既存の偵察衛星や商用画像衛星を活用することが想定されているが、その構築も着々と進められている。SAR衛星コンステレーションを運用するCapella Space社は、SDA規格に合致したMynaric社の光衛星間通信端末CondorMk3を搭載して衛星間データ中継の実証を実施する契約をSDAと締結している。さらに、NRO(National Reconnaissance Office)は2022年に基本5年、最長10年にわたって光学衛星画像を購入する契約(EOCL:Electro-Optical Commercial Layer)をBlackSky Global、Maxar Technologies、Planetの3社と締結している。SAR画像についても同様の契約を今年中に締結するようであり、これらの長期契約を通して商用衛星画像プロバイダの成長を促進している。
このように米国が宇宙能力の革新を急ぐ背景には、中国の動きに対する警戒があるものと推察される。ロシアによるウクライナ侵略は現在も続いているものの、米国はやはり中国が一番の脅威と認識しており、そう遠くない将来に台湾をめぐる危機が発生する可能性が高いと考えている。これに備え、早急に十分な抑止・対処能力の構築を急いでいるのである。これらの認識は、昨年改定された我が国の防衛3文書とも共通されている。この夏までに策定される宇宙安全保障構想で、どのような具体的方針、スケジュールが示されるかに注目したい。
ユーロコンサル主催の各イベント(2023年6月、9月開催)に是非ともご参加ください。
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