海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース
2022年12月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク
■ 論説-1:米国政府内での衛星画像の利用(葛岡)
■ 論説-2:スペースXの新たな安全保障ビジネスライン立上げ (大石)
■ 論説-3:輸送系の状況について(村上)
■ 論説-4:新たな安全保障関連三文書における宇宙利用(後藤)
論説-1:米国政府内での衛星画像の利用(葛岡)
この12月8日、米国政府監査院(Government Accountability Office: GAO)が米国政府内の商用衛星画像の利用について、National Security Space: Overview of Contracts for Commercial Satellite Imageryというレポートを発行した。
GAOは立法府の中の一組織であり、日本の会計検査院のように米国政府各部局の予算使用状況の妥当性を評価する組織である。実はこの9月、GAOはNATIONAL SECURITY SPACE: Actions Needed to Better Use Commercial Satellite Imagery and Analyticsというレポートを発行して、米国国防総省およびインテリジェンスコミュニティ内における商用衛星画像の利用契約について、各機関の役割を明確にするようとの勧告を出している。ここでは最近の衛星画像の発展を政府内で利用しきれていない、と釘を刺している。
さて、今回12月に発行されたレポートは上記9月レポートの補足という位置づけであり、National Securityに係る民生(Civil)向け政府組織の衛星画像利用予算を洗い出している。さすがに国防総省やインテリジェンスコミュニティでの商用衛星画像調達額は伏せられてはいるが、各省庁の衛星画像利用契約を細かく洗い出している。このレポートのサマリは以下の通り。
- 連邦の民生省庁10のうち5省庁で商用衛星画像購入契約を有している。すなわち農業省、商務省、エネルギ省、内務省およびNASAである。
- 上記5省庁すべてがPlanetを、また3省庁がMaxarと契約している。
- 商用衛星の最大契約者はNASAであり、個別契約以外に2018年からの5年契約でUS$75Mの包括契約を結んでいる。
- NASAとエネルギ省を除くと、毎年最大US$2Mの合計額の契約となっている。
- 10省庁のうち8省庁はこれ以外にNROやNGAで購入した画像を利用している。
数値が示されていない契約や、NRO/NGA経由での衛星画像利用のため、全契約額が年間US$2Mとしか計上されていないのは不満も残るが、各契約を見るとなかなか面白い。例えば以下の契約は興味深いものがある。
農務省:穀物生産状況モニタのため、全北米大陸を二週間ごとにPlanetでモニタ(US$815K)
商務省(NOAA):National Ice CenterでのSARデータ購入(ICEYE: US$37K、Maxar: US$1M)
NASA: Earth Science Division(ESD)がTeledyne Brown Eng.に対して、国際宇宙ステーションでのハイパースペクトルデータの購入(US$7M)
NASA: ESDがPlanet, Spire, Maxar, Airbus, BlackSkyと包括データ調達契約(各契約最大US$7Mまで)
National Ice CenterのSARデータ調達にMaxarが入っているのには違和感があるが、これはMaxar経由でICEYE以外のSARデータを調達しているということだろうか。
日本政府の利用と直接的な比較はまだできていないが、政府保有の民生地球観測衛星(Landsat)以外に商用衛星画像を使った民生プロジェクトが定着していることに感心した。日本でも政府内での地球観測衛星データの利用が試みられているが、検証・PoCから脱した定常的な利用に進むことが求められる。
論説-2:スペースXの新たな安全保障ビジネスライン立上げ (大石)
既にいろいろな場面で、繰り返し報道されているが、ウクライナ侵攻におけるスターリンクのサービス提供にてLEOメガコンステレーションの戦時環境下のレジリエンスが高い評価を得ている。同実績などを基に、空軍は、敵対環境におけるシステムの運用能力の観点から欧州及びアフリカでのStarlinkサービスを購入した。
スターリンク以外のメガコンステレーションも、軍に対するのブロードバンド通信サービス提供の積極的な対応が目立っている。例えば、OneWeb Technologies(OneWebの米国子会社)は、当初、コンシューマブロードバンドに注力する予定であったが、エンタープライズ及び政府系市場に軸足を移している。
尚、OneWeb及びアマゾンのKuiper等が、米軍DIU(*)の目指すハイブリッドネットワーク計画に対して積極的に参加の姿勢を見せている中、スペースXは、これまで、米軍などとのサービス提供の契約は進めるものの、高度な独自技術による構成というスタンスをとり、DoDが構築を目指すハイブリッドアーキテクチャに、スターリンクを統合できない状態にあった。このため、米防衛高官は、現状のスターリンクネットワークにその点に不満を表明していた。
*:DIU (Defense Innovation Unit) / 国防イノベーション・ユニット
そのような中、12月2日、スペースXは、『Starshield』と呼ばれる米国の国家安全保障政府機関を対象とした新たなビジネスセグメント立ち上げを発表した。Starshieldは、米国防衛及びインテリジェンス組織において需要が増加しているセキュア通信、リモートセンシング及び宇宙監視を含む製品及びサービス開発に、スターリンクコンステレーションを利用する。
DoD は、リモセンシステムにて収集されたデータのトランスポートに商用LEO衛星を利用することを考えており、同実現には、インタオペラビリティが、キーとなる。その点、 『Starshield』では、軍事衛星とインタオペラブルとなるよう、レーザー端末を具備する計画となっている。
スターリンクが今回、『米軍とのインタオペラビリティ確保に方向転換』したことにより、米軍による商用コンステレーションの利用及びハイブリッドネットワークの構築がさらに進むとともに、米軍内におけるスターリンクの役割がより強固になると思われる。
また、本動きは、スターリンクなどをベンチマークに中国が構築を進めるメガコンステレーションGuoWang(1万3千基)などにも影響を与える可能性がある。その観点からも、周辺動向を含めて、今後の動きを注目していきたい。
論説-3:輸送系の状況について(村上)
2022年も終わりを告げて2023年がスタートしようとしている。
2022年は年の初め、今年は新型ロケットのデビュー年と言われていた。Space-Xの完全再使用ロケットStarShip、ULAが開発しているVulcan Rocket、Blue Originが開発しているNew Glenn Rocket、ESAが開発しているAriane6、VEGA-C Rocket、日本のH3 Rocketがある。
しかし、終わって見ると7月に打上げられたVEGA-Cのみとなった。
打上げ回数で言うとSpace-Xが群を抜いている。Flacon-9は50回打上げられ、最早打ちげがNewsとならなくなりつつある。来年には100回打上げたいと話している。宇宙輸送系はSpace-Xの独壇場となって来ている。1段の再使用も確実に行える様になって来た。
そのSpace-Xでさえ、年内には初フライトを目指すと言っていたStarShipは初飛行には至らなかった。巨大システムであり、一筋縄には行かないと言うことか。
予想外だったのは、ULA、Blue Origin、ESA、JAXAの何れも初フライト出来なかったことである。各社とも大型ロケットの退役を控えており1日も早いデビューが必要な状況だったことから、残念に思っている。唯一の良いNewsがH3ロケットの初号機の打上げ日程が決まったことである。他社が苦戦している環境の中で、ライバルに差をつける為にも初号機を成功させ、速やかに運用段階に移行を図って貰いたいと願っている。
一方で、残念だったのが、イプシロン6号機の失敗とVEGA-Cの打上げ失敗が上げられる。不思議なのは、両者とも固体ロケットで不具合の原因が機械系にあることである。
固体ロケットはシンプルで不具合が少ないと言われて来たし、運用機で機械系の不具合が起こる可能性も少ないと思われて来た。ロケットの構成部品は多いし、一旦失敗すると衛星の再打上げが必要となり、インパクトも大きい。念には念を入れて慎重を期すことは必要だなと改めて感じた。
このところ毎年感じているのが、Space-Xの独走が続いており、どんどん各社は離されて行っていることである。且つて、Boeingが巨大宇宙企業で誰も追いつけないと思っていたのにこの10年ですっかり元気がなくなってしまっている。Space-Xは従業員数が6万人を超えて、大企業の部類に入って来ている。事業の幅も打上げから衛星サービスまで多岐に渡っている。経営的に幅が広いだけに難しい点も多いと感じている。2023年はそんなSpace-Xに勝つ為の一歩を誰か歩みだして欲しいと願っている。
論説-4:新たな安全保障関連三文書における宇宙利用(後藤)
2022年12月16日、新たな安全保障関連三文書が閣議決定された。三文書とは、外交、防衛、経済安全保障、技術、サイバー、海洋、宇宙、情報、政府開発援助(ODA)、エネルギー等の我が国の安全保障に関連する分野の諸政策に戦略的な指針を示す国家安全保障戦略、我が国の防衛目標、防衛目標を達成するためのアプローチ及びその手段を包括的に示す国家防衛戦略(防衛計画の大綱から改称)、国家防衛戦略に基づく具体的な装備品の整備の規模や防衛費の総額などを示す防衛力整備計画(中期防衛力整備計画から改称)であり、国家安全保障戦略は2015年の制定以来初の改定、国家防衛戦略と防衛力整備計画は2018年以来の改定となる。
2022年12月16日、新たな安全保障関連三文書が閣議決定された。三文書とは、外交、防衛、経済安全保障、技術、サイバー、海洋、宇宙、情報、政府開発援助(ODA)、エネルギー等の我が国の安全保障に関連する分野の諸政策に戦略的な指針を示す国家安全保障戦略、我が国の防衛目標、防衛目標を達成するためのアプローチ及びその手段を包括的に示す国家防衛戦略(防衛計画の大綱から改称)、国家防衛戦略に基づく具体的な装備品の整備の規模や防衛費の総額などを示す防衛力整備計画(中期防衛力整備計画から改称)であり、国家安全保障戦略は2015年の制定以来初の改定、国家防衛戦略と防衛力整備計画は2018年以来の改定となる。
新たに改定されたこれらの文書においては、非核三原則や専守防衛等我が国の国家安全保障に関する基本的な原則に変更はないものの、戦略的な指針と施策は戦後の安全保障政策を実践面から大きく変更されている。その代表的なものは、専守防衛の範疇における反撃能力の保有と、防衛関連予算を2027年度にGDP2%まで増額するという点である。これらについては報道などで様々に論評されているのでこれ以上深入りはしないが、防衛力を強化するにあたって具体的に強化する能力としては、①スタンド・オフ防衛能力、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能等7つの能力を上げている。
宇宙利用に関しては、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊へと名称を変更すること、将官を指揮官とする宇宙領域専門部隊を新編することなどが新たに示されている。今後5年間の宇宙関連防衛予算は1兆円を充てるとも報道されており、宇宙利用能力を強化していくという積極的な姿勢が表れている。実際、前述の具体的に強化していく7つの能力にとって宇宙利用は不可欠な要素であり、宇宙利用能力の強化は必然である。
具体的には、衛星コンステレーション等を活用して情報収集、通信、測位等の機能を宇宙空間から提供することによる陸・海・空領域の作戦能力向上、宇宙空間の安定的利用のため宇宙領域把握(SDA)体制を確立すること、宇宙アセットの抗たん性強化することなどが述べられている。さらに、おおむね10 年後までに、宇宙利用の多層化・冗長化や新たな能力の獲得等により、宇宙作戦能力を更に強化することが記されている。この他、衛星を活用した極超音速滑空兵器(HGV)の探知・追尾等の対処能力の向上に関する技術実証を行うことや、従来のXバンド通信に加え、より抗たん性の高い通信帯域を複層化する取組を進めることについても触れられている。
ただし、このように様々な宇宙能力を強化していくとは述べられているものの、それぞれどのようなアプローチで整備していくのか、他の防衛システムとの連接や運用システムを含む地上システムの構築等に関しては十分記載されているとは言えない。これらを記載する文書として、自民党提言「安全保障における宇宙利用について -防衛戦略三文書の改定に向けて-」等で制定を要望されていた宇宙安全保障に関する戦略文書に関しては特に言及されておらず、「宇宙の安全保障の分野の課題と政策を具体化させる政府の構想を取りまとめた上で、それを宇宙基本計画等に反映させる」と記載されるにとどまっている。これを受けて宇宙基本計画は近々改定されると思われるが、それまでにどこまで検討を深め、基本計画にどのように記載されるのか、来年度予算の状況を含めて注目していかねばならない。
ユーロコンサル主催の各イベント(2023年6月、9月開催)に是非ともご参加ください。
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