論説-1:衛星間光通信実験成功の意義(葛岡)
SEAKR Engineeringは6月10日に衛星間光通信の実験に成功したと発表した[No.46]。この実験は、DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency)のプロジェクトで、2機の小型衛星Mandrake 2(衛星名はAbleとBaker)間で40分にわたり光通信に成功したとのこと。この2機の衛星間距離は114km、データ転送量は288Gbitだった。
Mandrake 2は2021年6月30日にSpace-Xにより打ち上げられており、システムとりまとめはSEAKR Engineering (現在Raytheon傘下)、バスはAstroDigigal社製、光通信端末はSA Photonics社(現在CACI傘下)製と基本的に標準品を組み合あわせて実現されている。つまりこのプロジェクトの意義は各ハードウェアではなく、全体としての衛星間光通信技術の実証である。DARPAによるとMandrake 2の当初目的は以下の実証であり、その成果はSpace Development Agency (SDA)はじめ米国の政府内各組織のために使われる。
- ポインティング、回線確立、相手衛星追跡アルゴリズム
- 伝送速度とビットエラーレートの評価
- 衛星間と衛星地上間両方での光リンク性能の評価
また最終的には衛星間通信の最大距離は2,400kmとしている。
衛星間光通信技術は、過去にもAerospace CorpがNASAプロジェクトでOCSD AeroCube)というCubeSat間で2019年に実験し、2021年にはNASA GSFCがLCRD(Laser Communications Relay Demonstration)を実験している。また日本でもOICETSの軌道実験を基に周回衛星間と静止衛星間での光通信端末LUCASを開発し、ALOS-3に搭載する準備が進んでいる。
ではこれら過去の衛星間光通信と今回Mandrake2による衛星間光通信とは何が違うのだろう。筆者の理解によると、光通信端末単体の開発と、最終的に宇宙空間全体のネットワーク化Space Meshを考えた開発との違いである。従来は、光通信端末自体を開発することに意味があった。しかし現在SA Photonicsをはじめ、MynaricやTesatといったメーカがCOTSとして光通信端末を発売している。またSDAがすでにTranche 1 向けに光通信端末標準を発行している。この状況では、一対一の衛星光通信を実験する時代はすでに終了し、Space Meshを実現するために必要な技術の実証に力点が移りつつある。
実際DARPAはMandrake2以外にもPOETやLINCSなどの実証実験を次々準備している。これはDARPAのBlackJackプロジェクトのための技術実証であり、BlackJack自体がSDAのTranche Transport Layerへ発展する一つのステップとなっている。差し当たって目の前に見える目標として、SDAは今年秋にTranche 0として20機(BlackJackの一部)、2024年にTranche 1として126機の衛星を打ち上げることを計画している。特にTranche 1になると全衛星に衛星間光通信端末を装備し、地球観測衛星などの周回衛星に対してコマンド/テレメトリ、さらにミッションデータを衛星間で通信して、24時間365日周回衛星衛星を可視化してリアルタイム運用を可能にするSpace Meshの実現を狙っている。
Space Meshが完成されたとき、周回軌道の地球観測をはじめ宇宙の利用は大きく変わることが想像される。米国政府だけが単独でSpace Meshを構築・維持するのか、各国また民間がどのようにこの重要なインフラ構築・維持に参加できるのか。我々も今後の議論・各国/各社の動きに十分な注意を払っていく。
論説-2:ASBW参加報告(大石)
ASBW(Asia Satellite Business Week)に出席しました。参加報告は別途送付させて頂きました。 尚、第二回ASBWは、2023年6月7日~9日に開催予定。
論説-3:紛争における衛星画像の利用について(村上)
ロシアがウクライナに2月24日軍事侵攻から4月が経過した。この紛争は当初予想された短期での決着から、長期に渡って消耗戦の様相を呈して来ている。
今回の紛争の1つの特徴が火砲による直接衝突と衛星画像の活用が上げられると考える。
長期に渡る戦闘となったマリューポリやセベロドネツクの状況を見ると町が完全に破壊されているのが衛星画像で良く分かる。2003年イラク戦争や2001年アフガン戦争では、ここまで正確にタイムリーに情報提供されることはなかった。
これらの状況の把握に米国や欧米の民間衛星の画像が多数利用されている。ウクライナ紛争では衛星の機数も増えたのと分解能も上がって正確に高頻度に情報把握が可能となって来ている。この戦争がどの様に決着するかは、予断は許さないものの、実際に誰が何を行って来たかは、データとして消すことが出来ない状況となっている。
例えば、穀物の船への積み込みの一部始終が衛星画像にて分かって来ており、ロシアは何れこれらの説明責任を負わなければならない。
もう1つの衛星画像の利用は実戦において、ロシア軍の部隊位置をウクライナ側に提供していることが上げられる。火砲で劣るウクライナがここまで持ちこたえているのは、部隊の位置の情報をタイムリーに得ていることが考えられる。NATOでないウクライナに軍需衛星の情報提供を行うことは難しいと考えられるものの、民間衛星の情報を中心にロシアの部隊の位置を準リアルタイムで情報を提供することで効率的な戦いを支援している。米軍であれば攻撃目標まで衛星データ、グローバルホークとドローンを組み合わせて対応して行くと思われるが、ウクライナの場合は敵の位置は衛星データ、具体的な攻撃目標はドローンによって行っていると考える。これにより、火砲での劣勢を大幅にカバーして来たと考えている。
我が国は、情報活用は余り得意ではない。宇宙の防衛への活用も活発ではない。
一方で、米軍は宇宙からの情報を活用することを長年に渡って行って来ており、強固な基盤を持っている。宇宙情報の活用について、ウクライナの事例を研究し、我が国として宇宙からの情報を得る在り方と活用方法について有事への対応として検討が必要と考える。
ウクライナを支援した米国の動きは特異な事情でいざとなったら我が国でもある程度行える準備は必要ではないだろうか。
民間衛星のデータも買えば良いではないかと言う意見もあるが、有事の際、タイムリーに情報を得る手段としては心もとない。我が国として整備される計画の衛星もどうあるべきかもう1度考える時期に来ているではないだろうか。
2022年6月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス
| 【Established Space及び他トピックス】 | 【Hybrid Space】 | 【Emerging Space】 |
【衛星】 | ■Thuraya、シンガポールに新オフィス開設 [NO.013] ■Intelsat次世代NWがOpenSpace™ Platformと統合 [NO.015] ■Euroconsultは、 Extended C帯レポートを発行 [NO.017] ■IntelsatのFlexMaritimeは、1万以上の船舶をコネクト [NO.037] ■インマルサット衛星、英国ナビゲーション機能置換信号を試験[NO.043] ■SEAKR、 DARPAのMandrake2にて光通信実証成功[NO.046] ■中国が衛星ネットワーク共有を提案[NO.054] ■ノースロップ、軍事コンステ向Mynaricレーザー端末実証[NO.061] ■ORBCOMMの衛星ST 2100は、IoTアプリケーション向[NO.068] ■中国の新風雲気象衛星、データ製品の共有を世界に開放[NO.082] ■Viasat の株主がInmarsatの買収を承認[NO.085] ■中国「リモセン35号02組」衛星を3基同時打ち上げ[NO.090] ■Telesat、Lightspeed端末接続向英国ライセンス申請[NO.093] ■AvantiとViasat、エネルギー分野をターゲットの長期合意[NO.095] | ■Open Cosmosは、 ESAと小型衛星NanoMagSatコンステ概念開発契約締結[NO.002](図-3) ■AndesatとSES、アンデス地域全体で強化されたコネクティビティソリューションを提供[NO.005] ■Redwireは、国家安全保障LEOコンステレーション向リンク-16アンテナ製造契約獲得[NO.036](図-4) ■ThinKomとCarlisle IT、リージョナルジェットIFC向新たなフェーズドアレイ衛星アンテナ提供のため技術協力[NO.045](図-5) ■HughesとOneWebは、遠隔地の北極基地で米軍のための高速インターネットを展開[NO.088] | ■OmnispaceとNCINGA、5G NTNソリューションを開発[NO.016] ■Blue Canyon、超低高度小型衛星実証探求[NO.026](図-9) ■スターリンクがフランスでの営業許可を再取得[NO.032] ■イーロンマスク、スターリンクのIPOのタイムラインを延長[NO.040] ■アストラ・スペース大幅安 TROPICS-1結果が期待外れ[NO.051] ■StarlinkとOneWebは、スペクトラム調整計画に至る[NO.059] ■Aerospacelabがベルギーに「メガファクトリー」を建設 [NO.060] ■Planet、$146 MのNRO契約と四半期収益を発表 [NO.062] ■OneWebとStellar Blu Solutionsは、 Boeing 777試験フライトにて、LEOインフライトコネクティビティを提供[NO.067] (図-10) ■Epsilon3、宇宙PJT管理プラットフォーム向資金調達[NO.080] ■SpaceX、 5G計画によるStarlink使用不可を警告[NO.084] ■OneWebは、第四四半期に打上げ再開[NO.091] ■Xploreは、マイクロソフトAzure Orbitalの衛星試験完了[NO.096] ■ICEYEの新事業は、顧客に完全なSARミッションを提供[NO.106] |
【打上】 | ■アリアン、Vega CとAriane 6初飛行フライトウィンドウ発表 [NO.010] ■中国、有人宇宙船発射 年内ステーション完成へ[NO.022](図-1) ■アリアン6の初打上げは、2023年に[NO.055] ■下院軍事法案は、即応打上げ活動向に7500万ドル提案[NO.077] ■韓国、国産ロケットで世界7番目の衛星打上国に[NO.079](図-2) ■欧州の新型ロケット「ヴェガC」は7月7日に初飛行の予定[NO.083] ■Ariane 5の2022年初フライト APAC向2基の衛星打上げ[NO.092] ■海南文昌国際航天城、2024年に常態化商業打ち上げか[NO.104] | ■長征2C、中国自動車メーカ向に9基のナビゲーション試験衛星 打上げ[NO.019](図-6) ■Psyche打上げ遅延にて、ライドシェアミッション見直し[NO.043] ■中国の商用打上企業Expace、$237M調達[NO.100] ■Electron、NASA月ミッションキューブサット打上げ[NO.105] | ■Spaceflight、最新OTV、Sherpa-ACデビュー[NO.003](図-11) ■Xenesisは、 Evolution Spaceとの打上げ協定に署名[NO.049] ■SFL、ドラッグセイル技術利用のディオービット成功[NO.057] (図-12) ■Momentus、Vigoride ミッションにつき悲観的に[NO.063](図-13) ■スペースX、エジプト通信衛星「ナイルサット301」打上成功[NO.073] ■SpaceX 、2日間で3回の打ち上げ成功[NO.076] ■カナダ初、唯一のロケット工場をSpaceRydeがオープン[NO.089] ■スペースX「スターリンク衛星」53機の打ち上げに成功[NO.099] |
【その他】 | ■Speedcast 、プラットフォームに13 GB新キャパシティ追加[NO.006] ■米・日による宇宙農業実現に向けた植物栽培実験[NO.025] ■Gilat 、LEOコンステゲートウェイサポート向F/Oオーダ受注[NO.033] ■中国、世界初250万分1スケールの月全体地質マップ完成[NO.039] ■フランス、Artemis協定に参加[NO.041] ■下院軍事委員会、DODに商業宇宙技術とデータ購入要請[NO.042] ■ノースロップ・グラマン、国防総省のコネクテッド・バトルスペース・ビジョン向マルチレベル宇宙メッシュ・NW・プロトタイプを構築[NO.044] ■米商務省、衛星などの3Dプリント用設計図の対中輸出で米企業に暫定拒否命令[NO.053] ■「ジェイムズ・ウェッブ」主鏡にダストサイズの流星物質が衝突[NO.058] ■ESAとNASA、地球科学及び月ミッションにおける協力合意[NO.064] ■中国深宇宙探査実験室、運営と全面的建設の新段階に[NO.069] ■下院歳出小委員会が国防総省の宇宙計画を支援[NO.070] ■ユーロコンサルはラストマイル物流の需要拡大を予測[NO.071] ■下院軍事委員会、2023会計年度の国防権限法を承認[NO.087] ■Telespazioは、衛星サービス市場で重要な役割を果たす[NO.097] | ■NASAは、5回の追加Crew Dragonフライト購入[NO.011] ■NASAが次世代宇宙服の開発・製造を担当する民間企業2社と契約を締結[NO.024](図-7) ■カーゴドラゴンのミッションは、潜在的な推薬の漏れ調査のため延期[NO.035] ■呉科技部長がスペースX社を訪問、台湾に部品テストセンターなど設置するよう提案[NO.072] ■Speedcast、大幅な衛星キャパシティ拡張を計画[NO.075](図-8) ■Xプライズ財団は、アクティブデブリ除去コンペティションを検討[NO.094] | ■LEOコンステ向新世代衛星端末デビュー[NO.014](図-14) ■韓国地上局オペレータContec、グローバル展開資金調達[NO.065] |
【国内】 | ■三菱電機、世界初、宇宙光通信機能と受信方向検出機能を統合した光受信器を開発[NO.009](図-15) ■小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った砂から20種以上のアミノ酸[NO.027] ■宇宙航空の魅力を地上の生活へ届けるための新ブランド「JAXA LABEL」[NO.030](図-16) ■NTTとドコモ、ベンダー3社と6G実証実験で協力[NO.038] ■パスコ、新潟にデータ処理の新拠点[NO.103] | ■宇宙ベンチャー、「脱ロシア」模索=国内ロケット確保急務に [NO.074] | ■トプコン、マルチGNSS対応のICT施工システム発売[NO.001] ■マッハコーポレーション、耐放射線カラーカメラ開発[NO.008] ■SynspectiveとAddvalueは、 パートナーシップを形成し、顧客の迅速な対応によりEOサービスを強化する計画[NO.012](図-17) ■Sony、宇宙レーザー通信ビジネス立ち上げ[NO.020] ■コマツ、インドネシアで農業用ブルドーザー拡販[NO.029] ■ワープスペース、衛星向光通信網25年春めど[NO.034](図-18) ■「スペースウォーカー」と広島県呉市が連携協定[NO.052] ■東京海上日動、火災保険不正請求検知 AI等活用[NO.056] ■農作物の作付け調査効率化 サグリがアプリ提供開始[NO.066] ■WARPSPACE、Leaf Spaceと連携[NO.078] (図-19) ■パナソニックインダストリー、26年度に売上高3倍 [NO.081] ■古野電、船のIOT低コスト化 年内に内航向サービス[NO.088] ■ナガセ、航空・宇宙品質管理規格取得 需要開拓[NO.102] |