海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2024年10月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:岡屋 俊一
発行責任者:村上 淳

論説:IAC 2024 について(村上)

今年で75回目となるIAC2024が10月14-18日Milanで開催された。10,000人を超える参加があり、宇宙関係の国際学会としては最大規模となっている。情報も豊富で溢れていた。過去にはStarshipのコンセプトの発表がElon Muskよりあり、大きな関心を生んだこともあった。
今年は、IACの直前にStarshipの1段の帰還があり、このことが1番関心を集めた。このことはIACとは直接関係している訳ではないのに、どこに行ってもこの話で持ちきりであった。Starshipの影響をどの様に見るべきか話しているのはやはりSpace-Xが宇宙開発の中心にいることを象徴していると感じた。
Space-Xがどの様にビジネスを展開して行くのか見えていないものの、StarshipやStarlinkの動きを見ているとスピードの速さと価格に対する戦略で今のままの体制が続くと暫く厳しい状態となるのは事実と思われる。一方で、1強体制だと売り手市場になって、打上げ事業者に主導権を持たれることの懸念も強くなってきており、他の打上げ手段の確保が急務であると言われている。歴史的には、どの時期もほぼ3社が打上げサービスを担って来ており、この状態に戻ることが望ましいと衛星関係者は希望している。現在はSpace-X以外の会社は新型ロケットのデビューを果たすかその手前であり苦しい状況にある。こうした中、IACの期間中三菱重工がUAEの探査ミッションのH3ロケットによる打上げを受注したとの報道があった。1ヶ月前にはEutelsatの衛星の打上げを受注したばかりであり、立て続けの受注もある。三菱重工業の受注は多様な手段を持ちたいと言う市場の希望に上手く答えた結果だと考えている。

NOVASPACEは、打上げの市場動向と分析について、今回IACで発表した。
小型ロケット対大型ロケットの争は打上げの㎏単価で考えると小型ロケットは圧倒的に不利であり、特殊な軌道にタイムリーに投入して欲しいとのニーズを有する地球観測衛星だけしか顧客が期待できず、小型ロケットは1~2社程度が生き残るだけと見ている。小型ロケットメーカは中型ロケットに向かっており、小型ロケットで活きて行くのが如何に厳しいか物語っていると思っている。
3年前小型衛星打上げロケットを開発している企業は、世界で100社あったが現在は50社に減って来ている。この内、中国が8社であり、市場が厳しいことを物語っている。現在の小型衛星の市場の傾向を考えると更に淘汰が進むと見ている。
順調に事業を行っていると見られているSpace-Xでさえ、小型衛星専用ミッションTransportでも12トンの低軌道打上げ能力に対して3トンで打上げを行っている状況を見ていると小型衛星打上げ事業が難しさを象徴していると思っている、

今回IACでは民間企業(VAST)がポストISSのコンセプトを発表し、開発に向けてアピールをしていた。AXIOMも月探査用の宇宙服を発表し、これがPRADAとの共同開発であったのでイタリアの人はデザインが優れておしゃれだと自画自賛していた。
一方で、NASAは低軌道の活動について見直す可能性も話初めており、ISSからの移行がどの様になって行くか注意深く見て行く必要があると感じた。

論説:Silicon Valley Space Week について(村上)

Silicon Valley Space Weekは、ビジネスを中心に議論するSatellite Innovationと米軍の動向を議論するMilSat Symposiumの2本立てで実施された。
ビジネス面では最近の通信オペレータの合併が続いていることについて、オペレータはこれによりスリム化されるので良いことだが、関係する業者は事業が縮小することに対応せざるを得なくなり、今後会社の合併や淘汰が起こって来ると話していた。
そもそも衛星オペレータがここまで苦しくなったのは、Starlinkの影響であり、通信事業にて安定的な収益を上げていた衛星オペレータが変わらなければならない時期に来ていることを感じた。

MilSatについては宇宙庁が現在展開している低軌道衛星計画(PWSA)を強力に推進して行くと話していた。この計画は2年単位で開発を配備を行っており、計画に無理があるのではとも言われているが、長官は修正するところは修正し、強力に推進しないと中国やロシアの脅威に備えられないと話していた。
これらの配備を行うには、大量の部品の供給が必要になるが光端末の納期遅れが出たり、厳しい納期要求を満足出来ていないケースも出て来ており、これからが計画の正念場だと強く感じた。
一方、部品メーカのヒアリングでは、兎に角仕事が増えて売上が急増している。コストを下げる為に部品製造ラインを新たに作ったが、2年で投資は回収出来たと話していた。
静止衛星は数が減り、厳しい状況となっているのに対して、低軌道小型衛星は活況を呈している。
メーカは需要動向をしっかり見ながら対応して行く必要があるなと改めて感じた。

軌道上サービスについては最大の顧客である米軍が中々重い腰を上げず、多くの会社が開発契約を受けているのみで、運用フェーズへの移行が上手く進んでいないことが政府関係者やメーカから述べられていた。もう少し機動的に行った方が良いと思うが大きな組織を上手く動かしきれていないのが現在の状況の様だ。

イタリアでは、ワインを片手にピザを食べ、Silicon Valleyでもワインとシーフードを味わった。
どちらも美味しかった。


2024年10月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】⚫ 米国は衛星リモートセンシングで中国との厳しい競争に直面している(002)
⚫ Impulse Space社がシリーズBの資金調達で数百万ドルを確保(005)
⚫ レーダー衛星企業が軍事市場への進出を急ぐ(008)
⚫ ノースロップ・グラマン社がハイブリッドSATCOMの軌道上実証を完了し、商用宇宙インターネットに接続(009)(図-5)
⚫ NASAがX線と遠赤外線宇宙望遠鏡のコンセプトを研究対象に選択(010)
⚫ 最初の中国のブロードバンドコンステレーション衛星の明るさに天文学者を警告(016)
⚫ 中国政府は2025年に新たな量子通信衛星を打上げ(020)
⚫ 米宇宙開発庁は次期200機の衛星調達計画を公表(023)
⚫ 中国政府が3機目の高軌道インターネット衛星を打上げ(029)
⚫ SShijian19再使用型衛星は軌道上に2週間滞在後に帰還(034)(図-10)
⚫ 宇宙衝突回避方策は衛星展開のための困難な道のりである(041)
⚫ 中国がサウザンドセイルズメガコンステレーション用18基の衛星第2弾打ち上げ(042)
⚫ 中国政府が新しいGaofen-12リモートセンシング衛星を打上げ(045)
⚫ インテルサット33eが静止軌道で機能を喪失(053)
⚫ 宇宙軍は低軌道衛星サービスへの支出を増やす計画(058)
⚫ 米宇宙開発庁が低軌道実証プログラムに19社を選定(066)
⚫ 宇宙軍がノースロップ・グラマン社にミサイル警戒衛星の18億ドルの契約延長を発注(069)(図-17)
⚫ 衛星サービス業界は不確実な軍事需要に直面(077)
⚫ 米国は2025年からロシアと中国の衛星に対してメドウランドジャマー配備を開始(090)(図-25)
⚫ 国防総省は小型衛星の推進装置イノベーションを追求011米空軍、シエラスペース社の宇宙船を即応的に軌道から貨物を帰還させるために使用をすることを調査(003)(図-2)
⚫ Redwire社はオンボードコンピュータシステムでESAの第1回惑星防衛ミッションを可能にする(012)
⚫ GMV社、Galileoの欧州GNSSサービスセンターのインフラを開発(027)
⚫ ViaSat-3 F1が政府機関の顧客向けのサービスを開始(035)
⚫ Hydrosat社は国防用熱画像を補強するために米国空軍から数百万ドルの契約を受注(047)
⚫ タレスアレーニアスペース社とアルゴテック者がIRIDE契約を受注(048)
⚫ 米宇宙開発庁がUmbra社を衛星統合研究に活用する(060)
⚫ ミレニアム・スペース社、ミサイル防衛衛星3.86億ドルの契約を受注(068)
⚫ ExoAnalytic社は、Intelsat 33e機能喪失に伴い500個の破片を発生させていることが観測(078)
⚫ Sceye社がNASAとUSGSと成層圏から気候変動対応(087)(図-24)
⚫ ユーテルサット・アメリカ社とワンウェブ・テクノロジーズ社はイリジウム・サータス・STL®サービスを米国政府に提供(088)
⚫ Apex社はアンドゥリル社の防衛向け宇宙ミッションに衛星バスを提供(001)(図-1)
⚫ KMI社とExoSat社がアクティブなデブリ除去ソリューションに関する戦略的パートナーシップを発表(004)(図-3)
⚫ Rocket Lab社がVarda Space Industries社の2機目の宇宙船を完成させ、宇宙での製造を推進(007)
⚫ Planet社がProject Centinelaを立上げ、最新の衛星ツールを提供(013)
⚫ スタートアップが宇宙太陽発電に対する新たなアプローチを表明(026)
⚫ Maxar社とSkyWatch社がSkyWatchプラットフォームでMaxarの画像を全世界で利用可能にすることを発表(033)
⚫ Anduril社とImpulse Space社がAI主導の衛星軌道変換活動で協力044AccelerComm社は5GLEO衛星エコシステムにRadisys社を迎え入れる(036)(図-11)
⚫ Viasat社は欧州のサイバーセキュリティスタートアップ企業と協力し、衛星暗号化サービスを開発(049)
⚫ パワーデバイスのSBC社がSDAの追跡衛星に参入(061)
⚫ Silicon Sensing社がQPS社の小型SAR衛星のIMUS4周年を祝う(062)
⚫ Telesat社はLightspeed LEOゲートウェイのIntellian社と契約(065)
⚫ Aptos Orbital社はAI衛星プラットフォームの正式な立上げを発表(071)
⚫ AST SpaceMobile社がスマートフォン直結衛星の量産を開始(076)
⚫ Dawn Aerospace社がPerigee Aerospace社と提携し、新衛星推進システムを開発(079)
⚫ Space Forge社とVoyager Space社が商業宇宙製造で統合(080)
⚫ Solstar社は主要な狭帯域通信テストの態勢を変更(085)
⚫ AST SpaceMobile社はLEOで1st Five商用衛星の展開を完了(086)
⚫ Voyager Spaceが防衛業界のベテランを起用し、国家安全保障ビジネスをリード(089)
【打上】⚫ ベガCは2回目のモーター燃焼試験後に打ち上げに復帰予定(014) (図-6)
⚫ バルカンロケットはSRBに異常はあったが2回目の打上げに成功(015)(図-7)
⚫ 西昌が商業宇宙港を建設し、中国のロケット打上げ能力を増強(039)
⚫ アリアンスペース社はEUのコペルニクスEOセンチネル-1C衛星を打上げ(059)
⚫ 019Falcon 9がESAのHera小惑星探査機を打上げ(019)
⚫ 040Falcon HeavyがNASAのEuropa Clipperを打上げ(040)
⚫ 052Firefly社がTrue Anomaly社のジャッカルビークルを米国宇宙軍ミッションで打上げる(052)(図-14)
⚫ PLDスペース社が大型ロケットと有人宇宙船の計画を発表(022)
⚫ SpaceX社が5機目のStarshipを打上げ、Super Heavyブースターの着陸時のタワー捕捉に成功(038)(図ー12)
⚫ 国際宇宙港が協力関係を追及(051)
⚫ SpaceXはOneWeb社のLEOコンステレーション20機衛星を打上げ(054)
⚫ Rocket Lab社の最速2か月ターンアラウンド期間で衛星を打上げる(055)
⚫ SpaceX社は水曜日にStarlink Group 6-61小型衛星を打上げ(064)
⚫ ブルー・オリジン「ニューシェパード」で無人ミッション/新カプセル飛行成功(070) (図-18)
⚫ 中国のディープ・ブルー・エアロスペース社が弾道観光計画を表明(073)
⚫ SpaceX社はNROコンステレーション基数急増で多くの衛星を打上げへ(074)
⚫ Astra社がRocket 4の開発を支援するDIU契約を受注(075)
⚫ スターシップ飛行試験時にブースター着陸帰還は中止寸前だった(081)
⚫ Avio社が米国初のロケットモーター生産施設製造業者を選出(084)
【その他】⚫ インド政府が同国初の金星探査ミッションと4回目の月探査ミッションを承認(018)
⚫ NASAがRocket Lab社に火星サンプルリターンの研究契約を発注(021)(図-8)
⚫ 海洋専門家が国際宇宙ステーションの軌道離脱について懸念を表明(025)
⚫ X-37Bが軌道変換によりペイロードモジュールを放出、宇宙軍が発表(032)(図-9)
⚫ ISS後のLEOでの継続的な人間の存在のためのNASAのオプションを重要視(046)
⚫ インド政府が月の南極からのサンプルリターンミッションを狙う(063)(図-16)
⚫ ボーイング社のスターライナー不具合での損失は2億5,000万ドル増加(067)
⚫ Crew-8が地球に帰還(072)
⚫ 中国政府が有人月面車で2件の提案を選定(082)(図-23)
⚫ 中国政府は低コスト宇宙ステーション向け輸送船を開発する2チームを選定(083)
⚫ ISSに民間宇宙飛行士を送る機会を企業が提供(006) (図―4)⚫ 031Volta Space Technologies社が月面発電衛星ネットワーク計画を発表(031)
⚫ 037Vast社が商業宇宙ステーションHaven-2の設計をリリース(037)
⚫ 043Astro Lab社が小型月面車を発表(043)(図-13)
⚫ 056プラダが協力した次世代宇宙服「AxEMU」のデザインをアクシオム・スペースが公開(056)
⚫ 057Vast社が商用宇宙ステーションHaven-2を発表(057) (図-15)
【国内】⚫ 先進レーダ衛星「だいち4号」が静止衛星との間で光衛星間通信に成功(024)(図-20)
⚫ 日本のH3ロケットがエミラティ小惑星探査機を打上げ(030)(図-22)
⚫ ソフトバンク(株)のHAPS機「サングライダー」、フィールドトライアルで成層圏飛行に成功(017)(図-19)
⚫ アークエッジスペース社はJAXA衛星位置・航法等の契約受注(050)
⚫ スペースワン社「カイロス」ロケット2号機を2024年12月14日に打上げ(028)(図-21)