海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース

2024年07月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク

編集者:岡屋 俊一
発行責任者:村上 淳

論説:米国月面探査計画について(村上)

アポロ11号が1969年7月に月面に着陸してから、55年の月日が経った。NASAは次の目標地点として月を選び、再び人を月に送り込み、長期的な滞在を目標とする開発を行って来ている。
最終的な目的地は火星において、有人火星ミッションを行う上で必要な技術を月面探査で行うこととしている。

こうして、月面探査に予算を優先配分して開発を促進して来ている。
一方でArtemis計画には幾つかの課題が明らかになって来ており、計画の推進にはこれらの解決が必要となっている。また、従来であれば予算を増額することで解決を行って来たが、予算の柔軟性はなくなって来ており、幾つかの計画は見直しや中止しを行っているものの、全体的な計画を推進するには苦しい状況となっている。

Artemis計画の課題の1つ目がOrionの熱防護対策である。設計よりも再突入中の浸食が大きく対策が中々確定出来ていない。従来の実績から考えると再投入条件は安全側に取っていることから、浸食は小さかった。今回は想定より大きく事象の分析と対策に時間を要している。
OrionはArtemis計画の基幹システムであり、この早期の解決が期待されている。

2つ目が着陸機で、Space-Xが開発に取組んでいるものの、開発の遅れが出ている。着陸機に特化した開発であればかなりのところまで来ている感じもあるが、Space-XはStarshipとして完全再使用を目指した開発を行って来ており、この大型ロケットを安定的に飛ばす様になるには暫く時間を要する見込みである。

3つ目の課題が宇宙服でAxionがスケジュール通りに開発を完了できるか疑問の声が出ている。

この様な状況の中、月面探査の一環で開発されていた無人ローバーVIPER Roverの開発が7月に中断された。中断の理由は開発の遅れと開発費の超過とのことである。当初計画の2倍に費用が増加しており、開発を中断した方が費用を圧縮出来るとのことである。打上げはCLPSで開発中のAstroboticsの着陸機を使用する計画であった。
VIPERは南極域の水資源の探査を目的として、開発は2019年に始まり、開発費は2億ドルで計画していたのが4億ドルを超えるレベルになったとのことである。
既にローバーは80%程度完成しており、中止するよりも更に費用は掛かってもNASA全体の予算から考えると前に進んだ方が良かったのでは感じている。このローバーを輸送するAstroboticsのミッションはダミーを載せて予定通り実施するとのことである。CLPSはサービス調達なのでミッションをNASAの都合で解除しても費用は支払う必要があるとの事情も理解できるが。
開発したセンサ類はローバーから取り外して他のミッションで有効活用するとのことである。

Artemis計画の基幹的な部分は継続させる上でも今後問題になりそうなプロジェクトは早めに整理しておくとの方針の様である。
NASAは米国政府の予算のシーリングの影響を受けて、余裕の無い状況となっているのは理解できるものの、中国が月面の裏側に着陸させてサンプルを地球に持ち帰って来たり、月面基地計画を活発に進めている状況を考えると比較的小さい関連するプロジェクトを見直す程度では収まらないと感じている。

大統領選挙の結果や今後の予算がどうなるか見えない状況であるものの、どの様な結果になろうとも米国の探査をどの様に実施するかもう1度見直さないと行けない時期が近い将来来るのでは感じている。


WSBWは、今年からWorld Satellite Business Week → World Space Business Weekにブランド名を進化。
  1. 宇宙ビジネス関連各社(衛星事業者、衛星製造会社、打上げ事業者、金融業者など)のトップクラスの方々が集まるコンファレンス。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月16日-20日 / WESTINホテル・パリ

《昨年開催のWSBW2023の主要指標》

SDSS(宇宙防衛・安全保障サミット)は、フランスの防衛・軍事団体と提携して、第一回サミットを初めて開催。
  1. 防衛、安全保障、宇宙産業におけるグローバル・リーダーが一堂に会する重要なイベント(WSBWとの相乗効果の実現)。
  2. 開催日 / 場所:2024年9月17日-18日 / Automobile Club de France(フランス自動車クラブ)・パリ

本サミットは、国際的な防衛・軍事団体の協力と支援により開発され、防衛、安全保障、宇宙分野の世界的リーダーが一堂に集まる極めて重要なプラットフォーム。
→ SDSSに参加する防衛関係者にとって、潜在的なパートナー、イノベーター、サービスプロバイダー、投資家との理想的な交流の機会。

《プログラム概要(招待講演者、トピックス)》

Invited speakers

  • Space Commands and military agencies
    (US, France, Spain, Germany, Korea, UK, Japan, Saudi Arabia, Oman, …)
  • Space agencies and research centers
  • International organizations and alliances
    NATO, European Defense Agency (EDA), European Union Satellite Centre (SatCen), European Union Agency for the Space Programme (EUSPA)…

Explore Topics Surrounding

  • Space defense strategies
  • Related activities & partnerships
  • Space surveillance & operations monitoring
  • Space assets operations & protection
  • New capabilities development & challenges for defense actors
  • Innovation & adaptation to military needs
  • Role & relationships with the industrial ecosystem
  • Focus sessions: Connectivity, remote sensing

《最近のWSBWへの防衛関係参加者》

  • French Space Command (CdE)
  • National Space Council (US)
  • NATO Communications and Information Agency
  • Korean Agency for Defense Development (ADD)
  • Directorate General of the Armament (F-DGA)
  • European Defence Agency (EDA)
  • EuropeanUnion Satellite Centre (SatCen)
  • Ministry of Armed Forces(F)United States Air Force (USAF)
  • United States Space Force (USSF)
  • Defense Acquisition Program Administration (DAPA)
  • Ministry of Defence(Spain)
  • Canada Department of National Defence
  • Chilean Air Force, …

《キーハイライト》


2024年7月 宇宙ビジネス関連『事業ポジション別』・『市場分野別』トピックス

【Established Space及び他トピックス】【Hybrid Space】【Emerging Space】
【衛星】■ 欧州の宇宙資⾦不⾜が産業の潜在⼒を脅かす(005)
■ エアバス、ドイツの軍事衛星契約25億ドルを確保(013)
■ 地球低軌道衛星ネットワークの普及時代に備える宇宙軍(025)
■ Maxarが衛星画像ベースマップをアップグレード(027)
■ NASAとNOAAの静⽌気象衛星「GOES-U」打上げ成功(042)
■ ⽶国の核司令衛星は攻撃に対する強化が必要だと報告書は警告(044)(図-8)
■ ESAの気象衛星が環境試験を完了(045)
■ Maxar Intelligenceが次世代WorldView Legion衛星からの画像を発表(054)
■ エアバスとタレスがアイサテライトを合併(056)
■ 中国が新たな⾼分解能偵察衛星「Gaofen-11」を打上げ(059)(図-15)
■ CODAがSpace Delta 2の承認を得てトライアル」期間に⼊る(064)
■ 提案されたNASAの予算削減がチャンドラを終わらせると結論(070)
■ SES Space & Defenseが⽶陸軍のSATCOMをManaged Serviceパイロット契約として獲得(072)
■ ⽶軍は⼩型衛星⾰命を受け⼊れるよう促す(079)
■ Moogは、統合されたローンチロックを備えた新しい軽量でコンパクトなスラスタージンバルアセンブリを公表(083)
■ NISARの打ち上げは2025年にずれ込む(084)
■ Turion社、デブリ捕獲技術で宇宙軍との契約を獲得(003)(図-1)
■ Blue OriginとStoke Spaceが⽶国宇宙軍向け⼩型衛星ミッションを競う(011)
■ 軍から⺠間への宇宙交通の移⾏が重要な岐路に(021)
■ Scout SpaceがDARPAのコマーシャルテックイニシアチブに選定(023)
■ 9つのベンチャーが最初のSoCal-UK宇宙アクセラレーターに参加(024)
■ ジェネラル・アトミックス社、宇宙軍の気象衛星2号機を建造(036)
■ 宇宙ゴミを出さない⼈⼯衛星を作るためESAが⺠間3社と衛星バス開発で契約締結(046)(図-9)
■ LeoLabs社が英国のProject Tycheを⽀援(052)
■ フランスが⼩型衛星捕獲・検査ミッションに資⾦を提供(060) (図-16)
■ 英国宇宙庁がOrbit Fabに100万ポンドの助成⾦を投⼊(066)
■ 宇宙軍機関の野⼼的な衛星ネットワークプログラム調査レポート(074)
■ 英国のファイナンシャルアドバイザー、シティコート・アンド・カンパニーが宇宙ベンチャーキャピタルファンドを構築(085)
■ GHGSatがメタン排出量データでNASAの承認を取得(091)
■ 軌道上サービスは、市場への困難な道のりを進⾏(010)(図-3)
■ Orbit Fabが衛星燃料ペイロードの地上試験を完了(012)
■ 点と点をつなぐ:⽯油から軌道へ(017)
■ D-Orbitが⽶国で合弁会社を設⽴し、衛星製造を追求(030)
■ 中国が新衛星グループの⽴上げに成功(031)
■ Novaspace社の地球観測衛星は今後10年間で3倍に増加(037)
■ Redwire社は国防総省の⼩型衛星サプライチェーンをサポートするための⾼度なスラスター技術を開発(038)(図-6)
■ Alpine Space Venturesが1億7,000万ユーロのスタートアップ投資ファンドを買収し、主に欧州の宇宙セクターのポートフォリオを⽀援(041)
■ 宇宙で脅威激化中で燃料補給可能な衛星が優位(048)(図-11)
■ Novaspace社の海上衛星通信の⾒通では、⾮静⽌軌道ソリューションの市場シェアを明⽰(055)
■ HawkEye 360がAFWERX SBIR Phase II契約を獲得(063)
■ Astranis社がOmega社に2億ドルの資⾦調達で全額出資(071)
■ HawkEye 360の宇宙ベースのRFデータ+アナリティクスが世界のデータマーケットプレイスで利⽤可能に(087)
【打上】■ アリアン6がLIFIを発表:光速セキュア通信(004)
■ アリアン6が待望の初⾶⾏で軌道に到達(026)
■ 中国の⻑征6号Aロケットは軌道上のデブリ問題の可能性(039)
■ SLSロケットコアステージは、アルテミスIIミッションのためにKSCに輸送(049)(図-12)
■ レイセオン、イタリアのAvioと提携し、固体ロケットモーターの増産を推進(069)
■ NASAの⼤型ロケット「SLS」2号機のコアステージがケネディ宇宙センターに到着(076)
■ USSF-51はULAの100回⽬の国家安全保障マイルストーンの打上げ(080)
■ ULAはアトラス5ロケットの最終軍事打ち上げに備える(086)(図-25)
■ 中国のロケットが地上試験中に誤って打上げられて墜落(006)■ ⽉曜⽇に両海岸から打ち上げられるSpaceXの2つの打ち上げには、Starlink⼩型衛星とトルコの衛星が含まれる(018)
■ 中国の⺠間ロケット会社が4回⽬の打上げ失敗に⾒舞われる(034)
■ ドーン・エアロスペース社が超⾳速ロケット⾶⾏機の試験承認を取得(035)
■ Falcon 9が上段エンジンの故障に⾒舞われる(040)(図-7)
■ Rocket Lab社は、次のCapella Space Missionの打ち上げウィンドウを7⽉20⽇に設定(057)(図-14)
■ ABLは静⽌燃焼試験後にロケットを喪失(068)
■ Blue OriginがNew Shepardの26回⽬のミッションのクルーを発表(075)(図-18)
■ Falcon 9、打ち上げ再開を許可される(078)
■ Falcon 9がStarlinkの打上げで⾶⾏を再開(081)
【その他】■ 国際宇宙ステーションを未来へ移⾏(002)
■ NASAの評価は、アルテミス3⽉着陸船のさらなる遅延の可能性を⽰唆(008)(図-2)
■ ESAがISS初の⾦属3Dプリンタの実験に成功(014)
■ 「ベンヌ」のサンプルの初期分析結果が発表(016)
■ ⽕星の⼤地を切り裂く地溝帯ESA探査機マーズ・エクスプレスが観測(020)(図-4)
■ スターライナーの復帰は7⽉末、テストは継続中(029)(図-5)
■ ⽉探査機が数⼗の衝突警告を受ける(033)
■ NASAは、シスルナー運⽤のための「Autopilot」ソフトウェアをテスト(043)
■ NASAが⽉⾯⾞「ヴァイパー」をキャンセル(050)
■ 中国はILRS⽉⾯基地に50カ国を関与(067)
■ 帰還前のスターライナーのさらなるスラスター地上試験(077)(図-24)
■ 商業宇宙ステーションが国際化(009)
■ NASAの⺠間部⾨に対する最新の野望が具体化へ(015)
■ JAXAが商業宇宙ステーション技術開発を⽀援(022)
■ ISSが軌道を離脱のための強化されたドラゴン宇宙船(053)(図-13)
■ クルードラゴンとスターライナーがISSで撮影(058)
■ LRO Mini-RFデータにより⽉⾯下の広範な洞窟ネットワークが明らかに(062)
■ Intuitive Machines社のIM-2エンジンの認定により、貨物クラスの着陸船の開発が促進(047)(図-10)
■ Rosotics社が宇宙アプリケーションを備えた3Dプリンターを発表(051)
■ Sierra Space社がインフレータブルモジュールのフルスケール破壊試験を実施(073)(図-17)
■ SpaceXは、Dragonの着⽔地点を⻄海岸に戻す(082)
【国内】■ H3ロケット、⾼性能地球観測衛星「だいち4号」を打上げ(001)(図-19)
■ 地球観測衛星「EarthCARE」雲プロファイリングレーダーの初観測画像が公開(007)(図-20)
■ KSATが東京事務所を設⽴し、⽇本でのプレゼンスを拡⼤(019)
■ ispace EUROPEが⼩型⽉⾯探査⾞を公開(088) (図-22)
■ アストロスケールが実証衛星で撮影した⼤型スペースデブリの連続画像を公開(090)(図-23)
■ ⽇本のベンチャーは商業宇宙ステーションモジュールの開発を⽬指す(028)■ アストロスケールの実証衛星が⼤型スペースデブリの周回観測(032)
■ アクセルスペース、宇宙部品の軌道上デモを発表(061)
■ アストロスケールはOneWeb衛星軌道離脱のための資⾦を獲得(065)(図-21)
■ 新興の宇宙スタートアップの国(089)