海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース
2023年7月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク
■ 論説-1:ご挨拶(葛岡)
■ 論説-2:超小型GEO衛星動向:安全保障分野でも拡大?(大石)
■ 論説-3:米国企業の動向について(村上)
■ 論説-4:宇宙とデジタルツイン(後藤)
論説-1:ご挨拶(葛岡)
葛岡のあいさつ文をご参照ください。
論説-2:超小型GEO衛星動向:安全保障分野でも拡大?(大石)
超小型GEO衛星については、5月の論説で取り上げるとともに、先月のASBW参加報告でもスイスのSWISSto12社の動向などを若干報告した。
今月に入り、米国の超小型GEO衛星開発業者(兼)事業者であるAstranis社がフィリピンから1基受注したとの報道があった。同社は、今年3月にメキシコからも2基受注しており、これらを含め、現状、下表に示す計10基の開発が計画されている。
区分 | 打上げ時期 | 基数 | 内訳など |
初号機 | 2023年5月 | 1基 | Arcturusと名付けられ、アラスカでインターネットサービスを提供。 但し、今月21日に軌道上不具合が発生し、サービス提供不可となった。 |
Block 2 | 2023年第4四半期 | 4基 | 2基は機内接続プロバイダーのAnuvu向け、1基はペルーの通信サービスAndesat向け。4番目の顧客は現状未発表。 |
Block 3 | 2024年中頃 | 5基 | 内、1基はフィリピン向。2基は、メキシコ向。 |
今回のフィリピン案件は、同国のインターネット・サービス・プロバイダーHTechCorpの衛星サービス部門であるOrbits Corpからの受注である。Orbits社は、衛星キャパシティの一部を政府に売却する計画を持っている。この割り当てにより、フィリピンの5,000の遠隔地や農村地域など、所謂、地理的に孤立した不利な地域(Geographically Isolated and Disadvantaged Areas:GIDA)の最大200万人が接続されるとのことである。
AstranisとOrbits社の契約においては、政府のコミットメントや財政的な詳細は明らかにされていないとのことであるが、unconnectedの数値に関する議論では、しばしば「いくらそれだけの人がいても、それらの人々はサービス料金を支払うことができないため、実際上の需要とはならないのではないか」と指摘されることがある。しかしながら、本事例のように政府経由でサービス提供されるとなると、十分に需要としてのカウントが可能になる。
尚、フィリピンは、スターリンク衛星によるBBサービスも許可しており、今後、超小型GEO衛星における課題であるビット単価競争力強化の観点を含め、これら2つのサービスがどのように競合・共存していくのか注目している。
一方、Astranis社は、安全保障分野ビジネスにも参入を目指しており、今年2月には、同社の通信ペイロードにPTW(*)を統合する契約を宇宙軍から受注している。
*: PTWは、Protected Tactical Waveformの略。レジリエンス強化のため、米空軍が整備を進めているAEHF (Advanced Extremely High Frequency)のWaveformと実績のある商用波形を組み合わせることにて、より高い対妨害能力と高データレート通信を可能とする周波数ホッピングスペクトラム拡散(FHSS)ウェーブフォーム。
最新の米軍予算では、レジリエンスが宇宙計画の中核をなすという考え方が全面的に打ち出されており、宇宙軍の2024年度予算案では、この言葉が300回以上も登場していると報じられている。超小型GEO衛星には、短期開発、低開発コスト、さらには顧客のニーズに応じてある地域から別の地域に比較的迅速に再利用可能という特性がある。これら特性に加え、上記契約が、レジリエンスの強化に向けた実績として評価されれば、Astranis社が狙うように本契約は、安全保障分野における将来の大型プロジェクトへの足がかりとなる可能性もある。
Astranis初号機は不具合にて躓いたが、多軌道衛星システム化が進む中、超小型GEOが商用及び安全保障の両面で将来的に大きな役割を占める可能性もあると考えている。
論説-3:米国企業の動向について(村上)
米国の代表的な推進系メーカであるAerojet RocketdyneがL3 Harrisに買収されることが決まった。L3 Harrisは推進系のサプライヤーとしてこれからも役割を果たして行くとの声明を出した。Aerojet Rocketdyneは昨年Lockheed Martinが関心を示していたがこの際はシステムメーカが推進系機能を持つことは他社との関係において問題があるとの判断が規制当局からあり実現しなかった。今回はL3 Harrisと言うことで機器やサブシステムに強い会社であることから規制当局も問題ないと判断を下した。
これで米国の推進系専業メーカは、事実上姿を消したことになる。システムメーカが推進系開発を行う垂直統合が進んでいることや、従来に比べて推進系の開発が少なくなって来ていたり、衛星推進系も電気推進の割合が高くなって来ているもの事実である。しかし、米国においては、SLSの開発に巨額の予算を使っており、Aerojetは2段エンジンの開発で多額の受注を行って来ており、将来がまったく描けなかったと言うとそんなことはなかったのではと思いたくなる。
もう1社の固体ロケットモータのATKは既にOrbitalとの統合を経て、現在はNorthrop Grummanの1部門となった。米国においては、規模を確保して、研究開発資金を確保して、競争力を確保する為の研究開発や投資を行うことが出来ないと市場で生き残れないとの理念が浸透しており、老舗企業の統合は続いて来た。
一方で、Space-XやBlue Originの様な新興企業は、エンジンも含めて自社で開発・生産して来ており、この方がシステムに柔軟に対応出来るエンジンを作ることが可能であると考えを持っている。
何れにしても、米国の企業の動きはダイナミックで次から次に新しことを行わないと生き残れないとの共通な認識が出来ている。
振り返って我が国の防衛・宇宙産業を見ていると各社の1部門として小さく生きている状況にある。防衛産業を含めて競争力の確保が叫ばれて久しいが企業の再編の動きは活発とは言えない状況にある。防衛・宇宙関係の予算や投資が増えていることから、当面仕事量と言う意味では十分確保出来ているので今動く必要はないと判断があると感じている。
今回買収が行われたAerojetに対しては、国防省が国防生産法に基づいて、推進系設備の増強の為2億ドルの資金を提供してミサイル生産能力の向上を図るとのことである。それでも企業としての将来性を考えて買収を受け入れたと思われる。
我が国は基本的に鎖国政策を取って国内産業を維持して来た。鎖国政策も良いところはあるがそれを続けても世界との競争は出来ないとの認識を持っておく必要はあると感じている。
論説-4:宇宙とデジタルツイン(後藤)
7月4-6日に東京虎ノ門において開催されたSPACETIDE 2023に出席した。1000人以上の出席者、海外からも含め100人近い登壇者に加え、高市宇宙政策担当大臣、エマニュエル米国大使なども参加する盛会であった。今回のコンセプトは「宇宙ビジネス、新たな経済圏のひろがり」であり、国内外から宇宙大手企業、スタートアップ企業など多くの企業が参加していた。
初日に「宇宙安全保障における商業宇宙ビジネスの活用」というテーマで、元米国商務省宇宙商務局局長ケビン・オコネル氏と東京大学公共政策大学院鈴木一人教授が対談された。その中でオコネル氏が商用サービス活用の利点の一つとして、スピード感をもって最先端技術を採用していくことが挙げられていた。商用サービス、特にスタートアップに期待されるのは、やはりイノベーションとスピードなのだろうである。一方、スタートアップ企業の講演では、新たなビジネスモデルの構築や先端のデジタル技術を取り入れた新たなサービスの提供などが紹介された。その中で、今回はデジタルツインについて調べてみた。
デジタルツインの概念は、アポロ13号で発生した事故に対応するため地上に設けられたシミュレータで初めて用いられたということである。(確かに、映画でもそのようなシミュレータが出てきた。もちろん、この時はデジタル空間でというわけではなく、地上に設置されたH/W等を使ったシミュレーションだったが。) その後この概念は大きく広がり、例えば東京都はデジタルツイン実現プロジェクトを立ち上げて、都が抱える防災など様々な課題解決と都民のQOL向上を実現しようとしている。また、観測衛星データを取り込んだ「地球デジタルツイン」を開発し、気候変動や災害対策、都市計画に活用しようという試みも進められている。
デジタルツインはこのように広い分野で使われており、その定義もさまざまであるが、一言でいえば「現実世界・物理空間をデジタル空間に再現する」ということで、あくまで仮想の空間であるメタバースとは異なる概念である。一方、宇宙分野等で従来から用いられてきたCAE(Computer Aided Engineering)やDMU(Digital Mock-Up)との関係であるが、デジタルツインはこれらを統合するとともに、IoT等を通じて得られたデータを取り込み活用するという点が特徴であるといえる。
衛星にデジタルツイン技術を適用すると、開発段階における設計確認の効率化やスピードアップに貢献するだけでなく、運用訓練やライフサイクルコストの検討、さらに実際に衛星を運用する際には、その時点での状況を踏まえた計画作成にも活用することが可能となる。また、今後はコンステレーション全体でのミッション検討や運用検討に使われるだけでなく、例えば宇宙安全保障におけるシミュレーション(ウォーゲーム)等でもデジタルツインの活用が進んでいくと予想されている。もちろん、前述の東京都のデジタルツイン実現プロジェクトですでに検討されているように、宇宙と他のデジタルツインモデルとの連携も進展し、新たな宇宙利用が生まれることも期待できる。我が国も後れを取らないようにしっかりと進めていかねばならない。
それにしても、このデジタルツインをはじめ、現代を支える様々な技術の萌芽が今から50年以上前のアポロ計画にあったことを考えると、やはりアポロ計画はすごいプロジェクトだったことを実感する。我が国もこのような国を挙げての大プロジェクトを立ち上げられればもっと元気になるような気もするが、やはり難しいのでしょうね…。
ユーロコンサル (Euroconsult) が、40年の節目を迎えました!
ユーロコンサルは1983年の設立以来、現在までに60カ国、1,200社以上のクライアントに戦略的な意思決定支援を行っています。
同社のコンサルティングとマーケット・インテリジェンス・サービスは、政府機関や民間企業からご信頼を頂いています。
Celebrating 40 years of strategic reliable guidance for space stakeholders
《ユーロコンサル主催イベントのご紹介》
ユーロコンサル主催のイベント(2023年9月開催)に是非ともご参加ください。
お問合せは大石までお願いします。