海外宇宙ビジネス・マンスリーニュース
2023年1月31日 (株)サテライト・ビジネス・ネットワーク
■ 論説-1:英国の衛星通信への集中投資と日本の宇宙基本計画工程表改定(葛岡)
■ 論説-2:スペースXのStarshieldを巡る動き(大石)
■ 論説-3:中国の宇宙開発の状況について(村上)
■ 論説-4:2022年の打上げ総括(後藤)
論説-1:英国の衛星通信への集中投資と日本の宇宙基本計画工程表改定(葛岡)
英国宇宙庁(UKSA)は1月23日のニュースリリースで、英国における衛星通信の革新的な技術開発のために£50M (約80億円)の資金を提供すると発表した。この資金はESAのAdvanced Research in Telecommunications Systems (ARTES)プロジェクトの一部として使われ、新しい衛星コンステレーション、地上システム、サービスを検討するためのもので、開発対象の例としては5Gシステムとの統合、人間と機械との接続、ドローンなどのための通信インフラなどが挙がっている。
英国はEUを離脱したもののESAにはまだ参加しており、ESAに対して5年で£1.8Bを拠出しており、その中で£190Mを国際通信ミッションに係る資金としている。今回このうちの£50M分のプロジェクトの公募に至ったということである。英国の科学大臣George Freemanは、英国は急成長している衛星通信産業を有しており、そのサービスは£10.4Bのサービス規模となり、26,600人以上の雇用創出に寄与していると語った。またUKSAのCEOであるDr. Paul Bateも、ビジネス、旅行、セキュリティ、インフラ、コネクティビティなど、世界がこれらのサービスへの依存度を高めている今、衛星通信産業に携わることは重要と述べている。
ARTESはESAが過去にも革新的な衛星通信の新技術を開発してきたプログラムであり、例えばAirbusがKuバンド通信のためのソフトウェア定義衛星の技術をこのプログラムで開発し、結果的にOneSatという商用の標準通信衛星に繋がってスカパーJSATが購入するなど実績が出ている。英国でもARTESの資金を使ってOneWebの第一世代のプラットフォームとユーザ端末を開発してきたし、現在もSpire GlobalとAAC Clyde Spaceが低コストで迅速に宇宙にアクセスできるようなインフラの開発を行うプロジェクトPioneerを進めている。また英国のSofantという企業は昨年ESA ARTESプログラムの一部として、£6.2Mの契約で低コスト・低電力の衛星通信プラットフォームの商業化を支援するMEMSを開発するとのこと。
英国政府としても民間企業OneWebに出資した以上、グローバルを相手にした衛星通信技術・サービスをしっかり押さえる必要があるのだろう。もともとUKSAは自らが技術開発をするというよりも産業育成に重点を置く組織である。このように新しい技術を国として集中的に支援しようという姿勢は今後の官民のあり方を考えるモデルになるかもしれない。英国では過去には打上、もっと言うと宇宙港の整備に集中的に資金を投入してきた実績もある。何の技術を選択し、集中的に支援するかということはまさに政策の基本となる。
翻って日本の状況を見ると、昨年末に工程表の改定が毎年と同じように行われた。この中で宇宙防衛安全保障ミッション重視の姿勢はみられるが、何らかの「技術」を国として選択して集中的に支援するという姿勢は読み取れなかった。技術開発からサービス化まで一貫して何に集中するのか。UKSAは先に述べたように研究開発型の宇宙機関ではないので資金さえ確保して民間企業に投資・配分すれば、ある意味やりやすいのかもしれない。実際に技術を開発してサービス化・商用化するのは全て民間企業の責任である。一方日本ではJAXAやNICTなど国としての研究開発機関がある。この研究開発機関が技術開発を担当し、サービス化・商用化を民間企業が担当するというのはきれいなストーリーだが、却って困難な場合も多いことを従来の日本の宇宙開発に携わった者として痛感している。基礎技術の開発とサービス化・商用化を目指す技術開発とが同じ体制・スキームというのに無理があるのかもしれない。
論説-2:スペースXのStarshieldを巡る動き (大石)
先月の論説テーマでは、SpaceX社のStarshield(米国家安全保障機関と国防総省向けの新たなビジネスユニット)をとりあげたが、今月はその後の中国の反応などについて紹介したい。
スペースXの発表を受け、早速、中国の一部では、「Starshieldは、スターリンクの軍事ネットワーク化への変遷を示すものであり、軍事化に向けた重要なステップを示している」などと報道されている。また、「米国内の成熟した民間技術の軍事用途への採用の拡大は、宇宙での軍事覇権を追求するという米国の野心を完全に明らかにしている」との警戒感も明らかにしている。
同報道の中で、Starshieldは、より具体的に以下のことを示唆と指摘されている。
- 米国政府と米国の国家安全保障に役立つように設計されたものであり、米国の諜報収集、偵察、さらには世界的な攻撃システムにも役立つ。
- より高い仕様と、より複雑な機能を備えており、偵察、情報収集、交戦面で米国に大きな利便性をもたらす。
- 上記で挙げた偵察及び諜報能力に加え、地球を高速で周回する核兵器と核弾頭を効果的に管理可能となる。
また、「Starshieldプログラムは、LEO衛星の軍事化を加速させ、米国は、宇宙における一方的な軍事的優位性を構築し、世界の安全保障と戦略的バランスに新たな課題をもたらした」としている。
報道内では陽には触れられていないが、当然のことながら、「だから中国としても、米国に対抗可能なシステムを早急に構築すべきであり、現在、開発が進められているメガコンステレーションGuoWang(1万3千基)などの展開を急ぐべき」などという言葉が、続くものと想定される。
一方、1月24日、国防総省の軍事宇宙調達の責任者が、国家安全保障宇宙協会の防衛及びインテリジェンス会議で、 政府と業界の幹部に対して、彼が以前から主張している「製造に10年以上を要する伝統的な大型衛星から、3年で打上げ可能な小型衛星への移行」を改めて表明している。
軍における民間技術の採用拡大、及びStarshieldとハイブリッドシステムを構築する相手先衛星の小型化の流れを踏まえると、米宇宙関連安全保障は、軍関連の大手打ち上げ業者としての地位を確立し、さらに新たにスターリンクのアップグレード版Starshieldを立ち上げたスペースXを軸の1つに据えざるを得ない構造になった(=同構図にスペースXが持ち込んだ)と改めて感じる。
この一年足らずの間に「軍事進攻」、「ミサイル攻撃」及び「戦況」などという言葉が日常語にもなった今、宇宙関連動向をビジネス及び安全保障の両側面から注意深くモニタしていきたい。
論説-3:中国の宇宙開発の状況について(村上)
お隣の中国では、兎と月と桃はめでたいものとされている。兎は長寿、月は不死、桃は招福の象徴とのことである。今年は兎年なので月面活動を含めて宇宙開発は活発化すると思いつつ中国の宇宙開発の状況を見て見た。
衛星打上げに関しては、2022年には64回打上げている。Space―Xの打上げ回数が61回なので中国の方がSpace-Xよりも回数が多いことになる。1週間に1回打上げるとなると射場整備や衛星チェックアウトを流れ作業にしないとても実現出来るものではない。今年、中国は70回以上、Space-Xは100回の打上げを計画しているとのこと。
再使用ロケットの開発も行っており、ステンレススチール製の機体で、液酸/メタンエンジンを用いた機体試験を実施している。Space-Xが開発しているStarshipと計画が酷似している。
地球低軌道については、Tiangongステーションを2021年に打上げ、2023年には完成させる計画で開発を進めている。米国は現在国際宇宙ステーションを運営しており、2030年に退役させ、それに代わる施設の開発を進めており、2028年にはデビューさせたいと考えている。
探査に関しては、中国は2030年までに人を月に送ると言っており、既に3機にロボットミッションを月に送っている。火星に関しても10~15年の間に試料を火星から地球に持ち帰る計画を示している。
米国が2025年までに人を月に送る計画で開発を進めており、今年にはロボットミッションを行うことで開発を進めている。火星サンプルリターンについても2030年早い時期に実施したいと言うことで開発を進めている。
衛星サービスでは、中国は13,000機の低軌道衛星を打上げ、通信サービスを行うことを考えている。この計画はSpace-XのStarlinkと極めてよく似た計画となっている。
NASA Nelson長官が中国の状況は極めて脅威と感じると話しているが、こうして見ると、模倣の能力が上がって来ており、技術的に課題を解決出来る様になって来ているのは間違いない。地球低軌道を中国が抑えて、軍需的にも活用する計画を進めている。月面についても有力な地点を抑えるべく行動している。
西側は情報がオープンで計画の概要を入手することは左程難しくは無い。しかし、計画を実行に移すには国力(予算)と技術力がないと難しい。世界第2のGDP国となった中国は明確にその力を持ったと言うことか。
論説-4:2022年の打上げ総括(後藤)
2022年には失敗を含めて186回の打上げが行われた。最多は米国の87回(オーストラリアからのElectronロケット打上げを含む)、続いて中国の64回、ロシア22回、欧州とインドが各5回、そして日本、韓国、イランが各1回となっている。そのうち、打上げ失敗は米国が2回(いずれもAstra)、中国も2回(双曲線、朱雀)、日本(イプシロン)、欧州(Vega-C)、インド(SSLV)が各1回となっている。全ての打上げのうち米・中で80%以上、米・中・ソの3国で約93%を占めていることになる。
米国では87回の打上げが行われたが、その61回はSpaceX社のFalcon9/Heavyが占めている(Falcon-9が60回、-Heavyが1回)。そのうち34回は同社の衛星StarLinkの打上げに使用され、また3回はCrew Dragonによる有人飛行である。その他では、Rocket Lab社Electronが9回、Atlas-5が7回等となっている。(Electronの9回は全てニュージーランドのRocket Lab射場から打上げられた。) また、Artemis計画における月着陸を目指すSLSロケットは初飛行に成功した。
中国では、64回の打上げのうち53回が長征(Long March)シリーズの打上げであり、そのうち2回は有人飛行であった。その他、快舟(Kuaizhou)が5回、穀神星(Gushenxing)が2回等となっている。ロシアは22回の打上げ全てが成功したが、Soyuzが19回(うち2回が有人飛行)、Angaraが2回、Protonが1回となっている。その他の国々では、韓国が国産技術による初の大型ロケットNuriの打上げに成功したことが注目される。
一方、衛星・宇宙機の方に注目すると、2022年には2400機を超える衛星・宇宙機が打上げられた。国別では、米国が1900機以上と圧倒的な打上げ数を誇っており、2位中国の約170機を大きく引き離している。このうち1700機以上がSpaceX社Starlinkであり、全打上げの60%以上、米国打上げの約90%をStarlinkが占めていることになる。Starlinkを除く米国の打上げ数は200機程度となり、中国とはそれほど差がないことになる。その他、Planet社Flock(愛称Dove)とSpaceBEEがそれぞれ約40機打上げられ、小型衛星コンステレーション構築を進めるCAPELLAやICEYE(いずれもSAR)やHAWKEYE360(電波情報)、LEMUR(GPS掩蔽やAIS受信)等も打上げも継続している。(なお、SpaceBEEはニュージーランド、ICEYEはフィンランドからもそれぞれ打上げられている。)
中国は約170機の衛星が打上げたが、このうち約40機が商用・公共画像衛星Gaofen/Jilinである。この他、様々なセンサーを搭載した軍用偵察衛星といわれているYaoganシリーズが20機以上打上げられたほか、技術試験衛星Shiyanも10機以上が打上げられている。
衛星数で米・中に続くのは英国であり、110機以上の衛星を打ち上げたが、そのほとんどは通信衛星コンステレーションを構築中のOneWebである。ロシアは40機以上の衛星を打上げたが、その3分の1はCOSMOSシリーズといわれ、測位衛星GLONASSを含む軍事衛星等が含まれている。この他、衛星間通信を使ってInternet of Things (IoT)やmachine-to-machine (M2M)サービス提供を目指すカナダのKepler、同じくM2Mサービス提供を目指すスイスのAstrocast等の商用コンステレーション構築が進んでいる。
さて我が国の状況であるが、衛星・宇宙機では、世界初となる民間による月面着陸を目指すiSpace社のHAKUTO-R Mission 1や小型SAR衛星コンステレーション構築を目指すSynspective社のStriX β、超小型衛星で月-地球ラグランジェ点を目指すEQUULEUS、6U超小型衛星で月面着陸を目指したOMOTENASHIという、意欲的な4機の衛星が打上げられた。ただ、これらはすべて海外のロケットで打上げられたものであり、国産ロケットとしては18年ぶりに打上げ成功が0(ゼロ)回となったのは残念であった。2023年2月には新たな基幹ロケットとなるH3や民間ロケットスペースワン社カイロスの初打上げが予定されている。同じく2023年中の初打上げが計画されている欧州Ariane6とあわせて、米・中・ロの寡占状態に風穴を開けることができるかどうか、注目していきたい。
(なお、参考とした複数のデータベース間で数値に齟齬があり、その理由までは確定できなかったため、文中の数値は若干の誤差を含んでいることをご承知おきください。)
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